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Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【140字小説】#0078

今週のお題「ゾクッとする話」 朝の家事を終え、ノートパソコンでニュースやらお買い得をチェックしていると、家の裏手にそびえる十五階建てのマンションから赤ん坊の泣き声がする。それに続けて母親の泣きやめという絶叫。わたしは窓から顔を出し、音の出ど…

【140字小説】#0077

夜道の街灯の下に佇むピエロ。ジャグリングする手からは、蝶やナイフや香炉や六分儀やブロッターが光彩をまといながら宙に放たれる。わたしの夢だったものもその中にあるような気がして、しばし見とれる。笑顔の下に歪んだ顔を隠すピエロがそれらを落とすと…

【140字小説】#0076

小机に差し向かい。勉強が苦手な彼女はもうちゃらんぽらん。うちわで風を送ってあげるとはっとして、また問題に取り組む。そのうち、消しゴムのカスがわたしのノートに飛んでくる。上目遣いに睨み、彼女の頬にそっと手のひらをあてる。真っ赤になって怒り出…

【140字小説】#0075

神殿の扉を突き破り、赤膚の闘神があらわれる。人々はどっと逃げ出すが、参道の両側は池。落ちないように気遣うと、逃げ足は鈍くなる。男がひとり池へ落ちる。4メートルはあろうかという狂王は、池から男を掴み上げると全身の皮を剥ぎ、五体を引き千切り池…

【140字小説】#0074

天井近くの小窓から差し込む真夏の陽光はどこか薄ら寒く。水槽の黄濁したアルコール溶液の中には、《物》として凝集した死体たちが浮遊する。水槽の一等底には、十五年も前から全身を強ばらせ、沈殿する《物》もある。死体を新しい水槽へ移し替える作業に従…

【140字小説】#0073

足もとに眠る四匹の式神。その名も、ソオド、ペンタ、カプス、ワンダ。撥条アシをした彼らは、神々に使役されつつも、いとも軽やかに宵闇の空を駆けてゆく。ひとに喜びを伝える福音の使者ともなれば、嘆きをもたらす鬼胎の伝令ともなる。彼らの身体が軋みの…

【140字小説】#0072

双魚がふち取る円盤を回す老女。眺める俺。二本のマレットを手にした妖精[願わくは!]が、円盤の上部でそれが止まるまでのあいだトレモロを打ち鳴らす。盤面には、六つのイコンが彫られている。ひとの運命なぞ、その程度のバリエーションですむものなのだ…

【140字小説】#0071

砕け散るガラス片のひとつひとつにあなたの肖像が浮かぶ。世界は乱反射し、ぼくの周囲で光の濃度が増す。重なった破片の奥であなたの頬笑みが上下にズレる。頬や手の甲に降り注ぐ鋭利で、フラジャイルな切片が、皮膚を容赦なく切り開いてゆく。あなたの薄笑…

【140字小説】#0070

球を乗せれば転がりだしそうなテーブル。決して広くはないそこに珈琲と咖喱と参考書とノートを並べ、銘々が思索に耽る。ブレンドされた思索の香気が、深煎りが苦手なボクをも陶然とさせる。流行りの音楽が流れるイヤホンを外し、この独逸の超人といかに格闘…

【140字小説】#0069

嵐がやってきた。太陽は黒雲で覆われ、昼間の街はたちまち夜へと変ずる。あらゆるものを洗い流そうと雨が降る。あらゆるものを暴き出そうと雷光が閃く。あらゆるもの壊し尽くそうと地鳴りが湧きあがる。狂乱のサーカスのドラミングがオルガズムを迎えようと…

【140字小説】#0068

ほら、あれがお父さまの生まれた星で、こっちがわたしの。お前が生まれたのは今いるこの星。三つの星が近づくと、互いの引力で海の水が柱のように空へ昇るわ。そうして海を交換するの。このときに船を浮かべておけば、星の行き来もできる。わたしたちは天気…

【140字小説】#0067

本を開くと、星の形をした砂がこぼれた。ページからは熱帯の陽射しが立ちのぼらせる潮風のコロンが香る。深い切れ込みのあるワンピースからのぞくすらっとした脚。砂浜に残された可愛らしい足跡のような活字の隙間に見え隠れする小麦色のきみ。インクが陽炎…

【140字小説】#0066

立方体を積んで、家やお城なんかを作るんだ。豚や牛がいたり、大きな蜘蛛なんかが襲ってくるの。それが一昨日なんかは、僕よりもはるかに図体のでかい犬……火を吹くんだよ、そんなのが出てきて。ついに昨夜は地平線の彼方を雲をも越える影みたいなのが歩いて…

【140字小説】#0065

わらう、ワラウ、笑う、嗤う、哂う、咲う、微笑う、冷笑う、憫笑う、嘲笑う、 苦笑う、哄笑う、痙笑う、艶笑う、歓笑う、売笑う、誹笑う、媚笑う、顰笑う、大爆笑う、醒睡笑う、破顔一笑う、拈華微笑う、呵々大笑う、金井三笑う、八文字屋自笑う、セカイが朝…

【140字小説】#0064

彼女は背後からのしかかると、わたしのスカートのチャックをおろす。次は下着に手をかけた。互いに汗ばんでいるのが、セーラー服越しに伝わる。手が服のしたから差し入れられ、ハーフトップのなかにまで忍び入る。教室にあるものはふたりの呼吸の音だけ。遠…

【140字小説】#0063

256億5120万個あるデータを走査し、パーツを厳選した。目はズキズキするし、吐きもした。その甲斐あって、セカイにただヒトリのビスクドールが完成する。全身を、頭を、胸を、指先を、かたどる優美なライン。ボクはひとり悦に入った。そんなボクをキミは嘲っ…

【140字小説】#0062

鳥居からまっすぐ参道を来ると、白い玉砂利を敷き詰めた拝殿の前に出る。辺縁に並んだ灯籠には炎が揺れる。夜空から降りてきて明るく照らす月影に玉砂利は青みがかった光を返し、足元から霧が湧きたつように世界を発光させる。にわかに周囲がさんざめく。ひ…

【140字小説】#0061

あなたが7を切るとき、わたしは8を出す。あなたがジャックなら、わたしはクイーン。あなたはわたしに勝てないの。小さいときからずっとそうだった。憮然とした顔も嫌いじゃないけど、ほら、一発逆転の方法がひとつある。4枚揃えて、早く革命起こしてよ。…

【140字小説】#0060

彫刻刀を傾け、あなたの似姿を机に刻む。柔らかな目元はより柔らかく、高き鼻梁はより高く。カールした繊細な髪をまっすぐの刃で描くのは難しい。最後の仕上げに、わたしは人差し指の先を薄く一すじ切る。切り口から溢れ出す血を完成した肖像に流し込むと、…

【140字小説】#0059

中華屋の二階にある部屋から駆け降りる。階段には一段おきに猫が寝そべる。商店街のスピーカーは今日のウェザープランに変更があることを告げる。路上を往来するたくさんの民族衣装のあいだをすり抜け神社へと。ひとも通りもが満艦飾。大空には、曼荼羅を描…

【140字小説】#0058

レイリー散乱によって赤くなった陽射しがひとけのない教室を満たす。すみが丸くカールした掲示板のプリントはまるで枯れ葉のよう。夏の火照りを秋が冷ますように、教室の体温も一日の終わりとともに拡散していく。貴方の残り香は最後にひときわ輝きを放つ。…

【140字小説】#0057

土でこしらえた人形に魂を吹き込む。彼は怪訝な表情を浮かべ、自分の両手を見て、指を開いたり閉じたりしている。首を巡らせわたしを見あげる。どうして自分がここにいるのかわからずに、腹を立てているようだ。わたしは声を出し、人形の運命を思って嗤った…

【140字小説】#0056

道の両側を埋め尽くす土産物屋。色とりどりの制服とバックパックを身につけた少女たちが往来を闊歩する。煎餅とお香と茶器と饅頭と簪と手拭と石鹸とソフトクリームが交錯する網目を彼女たちは軽やかに練り歩く。今も百年前も同じ光景が繰り広げられたのだろ…

【140字小説】#0055

客がわたしひとりしかいない喫茶。珈琲を飲む。壁には昇竜が紺地に黄金の飛沫を散らす。店の奥と手前に置かれた背高ノッポのスピーカーから流れる不規則なテンポの音楽。同じメロディーであるはずなのに、なぜかずれて聴こえる。あるいは、来し方と行く末が…

【140字小説】#0054

飴の模様はぐるぐる渦巻き。伽羅倶梨幻燈の放つ光の粒もぐるぐる渦巻き。花は風に散り、集められ、ぐるぐる渦巻き。風に吸いあげられた花びらが頭のうえから降りそそぐ。たもとを広げ、受けとめた花びらを着物の柄のなかに溶け込ます。「姉さん、うちもそな…

【140字小説】#0053

窓から吹き込む花嵐。靄がかる遠くの野辺も花吐息。ガラスの器には色とりどりの飴玉がぎっしり詰まる。わたしは一番うえにある花色を指先で摘むと、ぽんと口のなかへほうりこむ。途端、花の色が唇を染め、花の薫りが胸いっぱいに広がる。ここに居る花を愛で…

【140字小説】#0052

狭い石塀の凹凸を足の裏に感じつつ、すたすた歩く。両腕はバランスをとるためにすっと高らかに。わたしとパラレルに空にはひこうき雲。線路は続くよ、どこまでも……なんて歌がつい口をつく。一歩踏み出すごとにこころだけが加速していく。もう少しでわたしも…

【140字小説】#0051

川縁に等間隔で並ぶ恋人の影。ときおり吹く風が鳴らす草のさざめき、彼らの真綿にくるんだかそけきさざめき、あたりは生命のメタファーで溢れている。わたしは耳に心地よいノイズの中をクロールですいすい泳ぐ。眼の前の草むらから一斉に蛍が飛び立つ。音と…

【140字小説】#0050

道はゆるやかに蛇行しているが、遠く彼方まで見通せる。太陽の斥力に潰され、無菌状態の道はどこまでも、徹底して不在だ。空気まで燃焼したかのように、体から吹き出る水蒸気は瞬く間に霧散する。道端に生い茂る向日葵たちが、まるで首を吊ったひとのように…

【140字小説】#0049

暑いね。今日、世界が壊れていくんだって。ほら、天蓋の星々も崩れて地上に全部降り注いできそう。苺ミルクのジュースはこんなに甘いのに、あなたの齧る氷菓はそんなに涼しげな音をたてるのに。この夕焼けの空は今宵一杯。十六年しかなかったけれど、あなた…

【140字小説】#0048

長い石段を駆け登る、駆け下りる。段々に打ち付けられる下駄の朴歯の音が四方八方へ乱れ飛ぶ。幽霊たちにぶつからぬよう、彼らの隙間で体を捻り、裾をはためかせ、ときおり石段に手をつくようにまろぶ。狐の面をつけた彼女が狐のようにしっぽを波打たせ、お…

【140字小説】#0047

手のラムネの瓶が汗をかく。神社の境内にずらりと並んだ古書を冷やかして見て歩く。一冊一冊の想念が次の継承者をじっと待ち構え、薄目で息を潜めている。この炎天下に木陰があるぶんだけましにせよ、ご苦労さまです。瓶をふと見ると、口をつけてもいないそ…

【140字小説】#0046

周囲を取り巻く山々へ文字の形に火が灯される。点火のたびに、病院の屋上に見学で集った人々の口から歓声があがった。ある山の順番に来たとき、それが阿鼻叫喚へと変わる。どんな文字が描かれたものか、ひとの背に隠れたわたしには見えない。巨大な翼を持つ…

【140字小説】#0045

赤いソファに深く沈み、珈琲を口に。気取られぬよう、素早く視線を隅々に走らせる。スタッコのうえに塗りつけられた、装い正しい紳士と淑女がぎこちなくカップを手にする。天井から降り注ぐ交響曲の滝が彼らのひそめきを聴き取らせない。百年前の珈琲の香り…

【140字小説】#0044

眼下に広がる町並み。どこまでも高い建物はなく、彼方に山の影がおぼろに浮かぶ。切り立つ崖のあいだを抜けたところにこの寺はある。町の東北、鬼門に在所し、永に渡り町を守り続けてきたという。今も足元からかたちを持たぬものたちの息吹が微弱な電流のよ…

【140字小説】#0043

踏切を越え、しばらく行ったところにその本屋はあった。おもての通りにひとの往返はないのに、店の中はとても賑わっている。棚に並ぶ本はどれも見たことがない。何て胸はずむ本屋だろう。そうか。ここへ入るひとはいても、出ていくひとはいないのだ。私は棚…

【140字小説】#0042

八月のラプソディに誘われ歩いていると、いつの間にか丘の上に出ました。夜空にはクモの巣状に連なった星々が燦燦とさざめいております。私のあとを追ってきたのっぽとちびのお付きが、ここは天国、あそこは地獄と言います。このうえなく美しいのにと不思議…

【140字小説】#0041

小学生の頃、ここの墓地でよく遊んだんだ。子供には、広場と変わらないからね。あそこに銀杏の樹が見える? 小学生くらいの子供ならすっぽり全身を隠せるウロがあってね。日本の電気会社がそこのウロに機密情報を隠し、後日ソ連のスパイがそれを回収していた…

【140字小説】#0040

ほどほどに暖かいし、汚れてるけど、空気や水もある。ひとの体から出る食べ物の成れの果てを始めとして、あらゆる養分が流れ着く。科学薬品もチャンポンだから、環境適応能力でいろんな免疫を持ってるんだろうね。そんな生き物がシンクの排水口からぬらぬら…

【140字小説】#0039

初めて部屋で幽霊を見たときはやっぱりびっくりしたよ。でも、いつの間にか室内をうろうろさまよう姿は風景になっていた。私が話しかけると「うっ」とか「あ…」とか返事をしてくれるんだ。声を出せるなら、たまには何か話しかけてくれてもいいのにさ。私は朝…

【140字小説】#0038

この坂で転ぶと三年のうちに死ぬんだって。子供のとき、坂の途中の黒いアパート、あそこに死神がいると勝手に信じて、私、前を通るときはいつも駆け抜けてたんだ。でも、あるとき二階の窓を見上げたら、磨り硝子越しにひとの顔が見えたの。男か女かも分から…

【140字小説】#0037

川べりのレストランで転勤になるボクにささやかな歓送会。友人たちは妻の同伴を望んだ。会が開き、駅へ移動する途中で妻が「熱がある」と言う。手近なベンチに腰掛け、休む。川を挟んで、さっきのレストランが見えた。川面に店の明かりが反射し、ゆらめく。…

【140字小説】#0036

昔の映画館は便所から小便の匂いが漂ってきてさ。もっと場末って感じだったよ。何百席もある立派なのはほんのひとにぎり。何してるかわかんない奴らが日がな一日時間を潰していたっけな。そんな映画館の便所から女の絞殺死体が見つかったんだよ。いやなに、…

【140字小説】#0035

地面に止まれって書いてあるから、ここに止まろ。いいじゃん、そんなに急いで帰らなくても。もう少しして、太陽が山の端に差し掛かると、この見渡すかぎりの田園が真っ赤になるんだよ。空も同じ。世界が一色に染まるとしたら何色がいい?わたしは断然赤だな…

【140字小説】#0034

頬の膨らみにはうっすら産毛があった。おくれ毛は清らか。いつも姿勢よく、黒板を見つめ、ノートをとるときも、僕みたいに背中を丸めない。問題を解きあぐねたときにだけ、少し腰をずらし、背もたれに軽く背を当てる。僕は彼女を後ろから見つめるだけだった…

【140字小説】#0033

どうしてそんな風に軽々しく、自分が飲んだペットボトルを俺に差し出すんだ。気持ち悪いとか思わない?いや、俺がじゃなくて、お前が。俺、クラスの女子に嫌われてるし。普通に接してくれるのお前だけだし、お前には気持ち悪いって思われたくないし。「何し…

【140字小説】#0032

砂の城が崩れるように、あなたの返信はどんどん短く、つれなく、間遠になっていく。それはもはや言葉ではなくて、記号だった。解読するほどの裏の意味もないのだろう。記号には信号を返すだけ。わたしの心を占めているのは、点と線。匂いも暖かさも厚みも音…

【140字小説】#0031

沸騰した草の匂い。凹凸のある原野に躓かぬよう、視線を足元に固定する。いつの間に立ち止まったか、私はその背中にぶつかる。夏は生命がその本然を剥き出しにする。あらゆるものが原色で描かれ、息苦しい。いつかこの道行きが懐かしくなるその日まで、私は…

【140字小説】#0030

遠くで花火のあがるドーン、ドーンという音がする。しかし、この部屋には沈黙が広がるだけ。世界から切り離されてしまったかのようだ。ほんの少し前まではあんなに騒がしかったのに。どれだけわたしが懇願しても、あのひとの拳は振りかざされた。今はソレも…

【140字小説】#0029

お祭りの人混みを友人たちと連れ立って歩く。誰かとすれ違った刹那、そのひとの指がわたしの手首を軽く摘んだ。振り返るがどのひとかもう分からない。しばらくしてから、友人たちにそのことを言うと、それは痴漢だ、いや掏摸だ、とかまびすしい。わたしが触…