Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

140字小説

【140字小説】#0018

荊棘が小径を抜けるとき、疵を濡らす腥き匂いに生命を思え。かの臭跡を辿り、駆り立てる者にこうべを巡らすこと勿れ。死がふたりを分かつときまで、か弱き手と手を白き紐帯がつなぎ止めよう。しろ百合のごと、かんばせにおもいはつのる。びろーどのごと、く…

【140字小説】#0017

ダイヤモンドの季節。どんなものよりも透きとおり、そして硬いの。突っかかてくる道化は返り討ちにして、一生消えない傷跡を残してやる。私を見て、誰もがため息をつき、ビロードの座を勝手に仕立てる。燃えれば、炭になるんだと嘲笑うひとがいるけれど、あ…

【140字小説】#0016

体に塗った蜂蜜を舐め取らせる。指先をねぶらせ、上腕筋に舌を這わせる。乳頭にたっぷり滴らせたそれにしゃぶりつかせる。耳たぶを玩弄した口は、眼球へ移動すると、それを愛撫し、鼻の穴、歯茎、胸元、臍、下腹部、割れ目へと着実に下降していく。蜂蜜は二…

【140字小説】#0015

携帯をいじりながら、お昼を食べる。フライドポテトを口に咥え、わたしの近況についた友人のコメントに返信を返す。隣の席に男が座る。男はトレーの上にフライドポテトをぶちまけ、山を作ると、そこへじかにケチャップとマヨネーズをかけた。赤と白とでドロ…

【140字小説】#0014

青空なるものを見た最後のひとが今日死んだ。最後に太陽が姿を見せたのは前世紀のことだという。空は常に厚い雲に覆われているけれど、昼だって夜だってある。若干平均気温は下がったようだけれど、一年を通せば四季の寒暖だってある。太陽の痕跡がすべて毀…

【140字小説】#0013

ちらちら、そわそわ、めろめろ、もんもん、どきどき、がらがら、しくしく、めそめそ、うつうつ、いらいら、ぐらぐら、ぱらぱら、ごくごく、けらけら、げらげら、ざくざく、たらたら、どくどく、くらくら、ごとごと、きゅっきゅっ、がたんがたん、ぎりぎり、…

【140字小説】#0012

これさ、おたくで買ったんだけど、いらなくなったから返品したいんだけど、そうそう、いつだったかなあ、でも、おたくで買ったのは本当なんだよ、なに、賞味‥‥‥期限が過ぎてる、でも、吸えるだろ、こんなもん賞味期限が過ぎてたってさ、おたくで買ったんだよ…

【140字小説】#0011

マクドナルドの昼下がり。とはいうものの、場所柄、店内は相も変わらず混雑している。最後のひとつにサラリーマンが座る。あとから来た男性は店内の様子を見て、席が空くのを立ったまま待つ。その次にも女性がやって来る。彼女はトレーを持ったままトイレへ…

【140字小説】#0010

澄ました顔でコーヒーとサンドイッチをひとくちずつ口にする。次に、女はバッグから取り出したハンカチで顔を覆い、小刻みに震える。くしゃみをしてるのか。ハンカチをテーブルに置くと、また平然とコーヒーとサンドイッチを口に含む。ハンカチを手に取る。…

【140字小説】#0009

Tシャツの襟首なんかは伸びきって、ダラーッとしてるわけ、髪の毛はフサフサのもいれば絶滅しかかっているのもいたよ、で、お互いに目も見ず、大声でプリキュアとかエヴァを話しているところへホットケーキやプリンアラモードが運ばれてきて、無心にぱくつ…

【140字小説】#0008

トイレに長い髪の毛が落ちてたんだけど。髪の毛は抜けたあとも成長するんだ。ふうん。ブラウザの履歴にタイ料理のお店が残ってるんだけど。匂い控えめのパクチーなんてあるんだ。それだったら食べられるの。ふうん。私って何にも知らない。でも、あとかたな…

【140字小説】#0007

大学では何を専攻したの?-はい、フランス文学です-へえ、卒論とか書いたの?-はい、今テーマを絞っているところです-どんな?-はい、フランス革命がヨーロッパ各国に及ぼした影響について書こうかと考えて……-全然分からねえや。男は足を組み、体を横…

【140字小説】#0006

部屋に黒猫が現れるようになった。部屋を隅々まで検めてみるがどこにも抜け穴はない。友人たちと見張ることにしたが、気付いたときにはみんなの輪の中に鎮座している。引き出しから拳銃を取り出し、猫めがけて六発撃ち込む。直後、こめかみからぬるぬるした…

【140字小説】#0005

料理ができあがるまえに、付け合せのサラダが運ばれた。テーブルに用意された二種類のドレッシングからひとつを選ぶと、若い女はそれをサラダにかける、かける、かける。ドレッシングボトルの半分がいっぺんになくなった。食べ終わったあとのサラダの器には…

【140字小説】#0004

運転手は、道順を教えてくれと言う。話に夢中になると、急ブレーキが増える。私の足は突っ張る。下の道を行くと時間がかかると言って、高速道路へさっさと乗り入れた。料金は運転手持ちだそうな。一方通行の表示を見落とし逆走すると、ヤバイな、まあいいか…

【140字小説】#0003

夜空に鏤められた星々のように人々は地上で光を放つ。誰に気付かれることもなく、生れ、そして潰え去る光たち。「一年に一回でも会えるだけ、織姫と彦星はマシじゃない」不貞腐れているのか、嘲っているのかわからない口調の友の手を私は握る。表情を背ける…

【140字小説】#0002

無闇矢鱈に撫でればいいものではない。女の子と同じでルールがある。喉の下をくすぐると気持ち良さそうに目を細める。手をお尻へ持っていき、尻尾の周りをナデナデすると、尻尾を真っ直ぐピンと立たせ、そのまま体を私の足に摺り寄せてくる。しめしめと思っ…

【140字小説】#0001

「携帯電話を使うのをやめなさい」という声が混雑した車内に響く。二度三度繰り返される声に、こそこそと折りたたんで片付ける人、これ見よがしに舌打ちして鞄へしまう人。携帯電話が医療機器に誤作動を引き起こすのは都市伝説だったかな、と私は頭の片隅で…