Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】チェコ人の目に映ったオランダ-『オランダ絵図 カレル・チャペック旅行記コレクション』

f:id:dawnrunner:20140808192558j:plain

ワールドカップでオランダは大健闘の三位。
ただ、今回のチーム、母国ではあまり期待されていなかったみたいで(おいおい‥‥‥)、このたびの結果にオランダ国民は大喝采なんだとか。
選手の心境は複雑でしょうね、嬉しいだろうけど。

オランダは、ポルトガルに次いで二番目に日本にやってきたヨーロッパの国でして、意外なところにその文化の足跡が残されています。
例えば、ピンセット、ビーカー、スポイト、レンズは、全部オランダ語
わたしたちが科学の授業で実験をするときに、実はオランダ語が飛び交っていたんだと思うと不思議ですよね。

これ以外にも、東京駅の真ん前に八重洲(やえす)という町があります(丸の内と逆方面ね)。
この名前だけ見ると、古来より今に伝わる由緒正しき地名って感じがしますが、実はこれ、ヤン・ヨーステンというオランダ船乗りの名前が元になっています。

さて、今をさかのぼること八十年前、そんな日本との関わりが深いオランダを旅したひとりのチェコ人がいました。
彼の名は、カレル・チャペック
言わずと知れた「ロボット」という言葉の生みの親。

彼が世界ペンクラブ大会参加のために訪れたオランダの印象を綴った本、それが『オランダ絵図』です。
チャペック自身の手によるイラストが多数掲載された、とてもお洒落な本です。

全四章に分かれており、その中身をざっくり要約すると、以下の通り。

Ⅰ.オランダの町の印象
Ⅱ.オランダの風景
Ⅲ.オランダの著名人
Ⅳ.その他雑感

「Ⅰ章」だけに限って、印象的なフレーズを抜粋。

「ここオランダでは、自転車に乗るだけで自然に走り出す、と言われている。この国はそれほど滑らかで平坦である」

「しかし、物事の様子から見て、わたしはこう言いたい──昔のオランダ人たちが自分たちの町を家と水で建設した理由は、主として、いわば一度に二つの町を作ろうとしたからだ。一つは地上の町であり、もう一つはその水鏡に映ずる町である。自らの国土の大きさから見て、町をそんなに広げることができないから、その規模を垂直方向に二倍にしたのである」

「しかし、もっとも運河らしい情景は、夕闇せまる頃、薄暗い運河の上に塔からの鐘の音が流れる時である。それは、鐘の響きが重い滴となって、暗く平穏な水の面に落ちて来るような感じだ。まるで、何百年もの敬虔な鐘の響きが、静かな運河に降りそそいでいるかのようである」

「そしてまた、ある夜、海がきらきら輝くのを見た。波の背のどこかで緑の光が閃くと、まるで稲妻のように広範囲に広がり、波間に落ちる。瞬間、海面すべてが冷たい燐光に輝き、岸辺に押し寄せてそこで消える」

「運河の上を牛乳の缶を積んだ船が静かに行き来し、街道の上を牛乳の缶を積んだ貨物自動車の一隊が走り、牛乳の缶を積んだ列車ががたごとと町に向かう」

「オランダでは女性がどんな立場にあるのか、それは知らないが、(専門的に言うと)優位的勢力だと思う。と言うのは、オランダ全土において、直接に女性的な清潔さが支配しているからだ」

 

今から八十年前の風景や印象ですから、これをそのまま現代に期待しても酷な部分もあるでしょう。
しかし、わたしたちの目に映る異国の風景は、たとえ時代と場所が変わろうとも、そこに旅情をかき立てる何かをたたえています。
そうした旅情へためらいなく飛び込んでいけるかどうかは、ひとえに観察する目を持つわたしたちの側の想像力とセンス次第。

チャペックさんの「詩人」の感性は、日常風景の薄膜をめくったところにある「真のオランダ」をすっすっとひろいあげていきますが、そこへさらに興を添えているのが、彼の手によるペン画の数々。
モチーフの特徴を的確に捉えたペン画は、簡潔なだけに、こちらの想像力をいたく刺激し、豊穣な色彩をわたしたちにもたらします。

作品例:
http://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Drawings_by_Karel_%C4%8Capek

ちなみに、日本では、カレル・チャペックで検索すると、これでも足りないかというくらいに「みつばちバジーちゃん(嫌いではありませんが)」が出てきますが、あれとは関係がありませんので間違わぬように。

本書のシリーズには、ほかにも「イギリス」「チェコスロヴァキア」「北欧」「スペイン」が「カレル・チャペック旅行記コレクション」として用意されています。

今の日本人にとって、オランダといえば、風車と木靴とチューリップの印象だけが突出してしまっていますが、鎖国時代の日本に世界へ開いた窓として文化をもたらしてくれた水運の国。

そんな興味を胸に抱きつつ、チャペックさんによる「旅行ガイド」を楽しんでいただければと思います。

オススメです♪

キャンディ・ダルファー、ヴァン・ヘイレンマタ・ハリ(女スパイ)など、意外な有名人がオランダ人だったりするんですナ、これが。
 

オランダ絵図 カレルチャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

オランダ絵図 カレルチャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

 
イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

 
チェコスロヴァキアめぐり―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

チェコスロヴァキアめぐり―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

 
スペイン旅行記―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

スペイン旅行記―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

 
北欧の旅―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

北欧の旅―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)