Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【雑 文】物語をつむぐ五人の登場人物

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わたしが物語の構造を整理するときに用いる方法をご紹介します。

この手のものは、おそらく神話学のジョセフ・キャンベルや構造主義方面のえらい先生がたがとっくに研究していることだと思います。

ただ、彼らの著作を読むと、とにかく難解ですし、そもそも論や緻密な要件定義からスタートするので、一冊読むのに一ヶ月以上かかること請け合いです。
しかも、読み終えてもあまり記憶に残っていない。

ですので、そんな細かい理論よりも手っ取り早く使えるものとして、僭越ながら、わたしが普段行っていることを以下に解説した次第です。

では、早速。

物語とは何かを考えたときに一番シンプルな説明がこれ。

「お話ってどう書くの?」(略)
「え、だから、出る人物に何か欲しがらせて、手に入れるために行動させんだよ」
(矢部崇『〔少女庭国〕』)

 

わたしのなかでは、究極の定義です。
おそらく、物語と名のつくもので、この分類からこぼれるものはないと思います。
先日、ご紹介した杉浦日向子『百物語』を例にあげて、ご説明すると、

其の六
深夜の墓地で白衣僧形の男女が墓石を磨く。
それを見かけた男が見咎めると、ふたりは逃げ出し、闇に消えてしまう。
その消えたあたりで四つの目が光る。
ぞっとした男は家路を急いだ。
家に帰り着くと、七歳の娘が父の帰りを喜び迎える。
その娘の歯には、お歯黒がベッタリと塗られていた。

 

こんな短い物語であっても、

  • 夜中に墓石を磨く男女の不正を正す(正義を欲しがる
  • 怖くなって家へ逃げ帰る(安全を欲しがる

といった「欲しいもの」に従って、主人公である男は行動しています。

 

話が短く、登場人物もほぼ主人公ひとりに限定されるなら、主人公の行動を順番に追っていくだけで物語が完成します。
しかし、物語が長くなると、主人公以外の登場人物たちがさまざまな思惑を持って主人公の行動に絡んでくることは避けられません。
後押ししたり、足を引っ張ったり。
主人公が何かを求めて行動するときに、それ以外のキャラクターがどのような力学的関係に配置されているかを構造的に理解しておく。
こうすることで、自分の物語に不足している要素を発見したり、どのようなトーンの物語なのかを客観的に理解したりするのに役立ちます。

その「関係」ですが、ざっくり整理するとこんなところかな、というのが以下。

  • 主人公
    「何か」を求めて行動するひと。

    「何か」は 、ヒト(仲間、恋人など)、モノ(アイテム、財宝)、情報(真実、理念=正義・自由・平等など、アイデンティティ、自分の生い立ちなど)。
  • 指導者
    主人公が「何か」を得るために必要な成長を促すヒト・モノ・情報。
    精神的な支えでもあり、第一義的に乗り越えるべき存在。
  • 促進者
    主人公が「何か」を得ようとする行動のモチベーションを提供する、あるいは共に協力するヒト・モノ・情報。
  • 外部協力者
    主人公に直接的な関わりは持たないが、主人公の行動を左右するトリガーを間接的に提供するヒト・モノ・情報。
  • 敵対者
    「何か」を求めて行動する主人公を邪魔するヒト・モノ・情報。
    究極的に乗り越える存在。
    不倶戴天型、同族嫌悪型、ステルス型など、敵対関係もいろいろ。

以上を図にしたものです。

 

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「外部協力者」も主人公の行動を左右する点だけ見れば、「促進者」とひとつにしてしまっても良いように思います。
そうすれば、分類はさらにひとつ減って4つです。

ただ、このあと具体的な作品を見ていきますが、案外、主人公との関係線は細いにも関わらず、物語世界に大きな影響を与えるキャラクターっているのです。
例えば、『ジョジョの奇妙な冒険』の山岸由花子。

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彼女が積極的に接触するのは、主人公の東方仗助ではなく、あくまでも脇役の広瀬康一
ただし、康一は、由花子のストーカー行為に勝利することで成長し、のちのち仗助を大きくサポートしていきます。
このような由花子の存在は、仗助にとって直接の「敵対者」とはなりません。
さりとて行動を共にする億泰や露伴大先生のような「促進者」でもありません。
こうしたときに「外部協力者」というカテゴリーがあってもいいのではないかと考えた次第です。

また、「外部協力者」には、物語に「リアリティ」を与える機能もあります。
PSYCHO-PASS』の禾生壌宗や『新世紀エヴァンゲリオン(TV版)』の鈴原サクラのようなキャラクターたちは、主人公と直接の接点がないにも関わらず、前者であれば権力によって、後者であれば無力な一生活者として、主人公の活躍に規制をかけてきます。
物語に「現実」のたがをはめる、すなわち「リアリティ」を与えるということです。
いかに彼らを効果的に配置し、適宜絡ませていくかで物語の厚みは変わってきます。

 

さて、お待たせしました、ここから具体的な作品です。

まずは基本を抑えましょう。
『桃太郎』(笑)

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いやあ、シンプルですね。
昔話があっさり感じられるのは、こういうことなんですね。
桃太郎の成長を促す指導者もいなければ、犬・猿・雉たちに明確なキャラ分けもありませんから十把一絡げです(一応、忠義と知恵と勇気の象徴ではありますが)。

ですから、逆に考えると、そうした要素を追加すれば、桃太郎であっても物語に奥行きが出てきます。
例えば、桃を川に流すまでの「神々(外部協力者)」のやりとりを描くとか、犬・猿・雉が桃太郎と出会うまでにどれだけ「試練(外部協力者)」をくぐり抜けてきたかをサブストーリーとして描くわけです。
桃太郎が成長するにあたっての指導者、メンターの存在も不可欠。
桃太郎が鬼退治に出るまでトレーニングをしたのは爺さん(ヨーダみたいなもの)。
ところが、鬼退治をして帰還してみると、爺さんこそラスボスでした!みたいな。
爺さんを倒し乗り越えることで、初めて桃太郎は真の成長を果たします。
最終決戦で猿以外の犬・雉が死ねば、「犬も逝った。」的なさらに胸熱な展開になります。

余談はこの程度にして、次行きます。

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ドラえもん』も子供向けの作品ですから、とてもシンプルです。
しかし、映画版では、ジャイアンがころっと優しくなり、男気を見せたりします。
つまり、映画版や外伝などを制作するときは、これらの属性を変えればいいんですね。

普段は「外部協力者」属性のひとが「指導者」になったり、「敵対者」が「主人公」になるような視点の入れ替えをすると、読者は新鮮な印象を持ちます。
のび太の魔界大冒険』で出木杉のび太に魔法の解説を行うシーンなどは「外部協力者」であった出木杉が少しだけ「促進者」へとシフトしたわけです。
これだけでも「ああ、出木杉くんがこんなに喋ってるよ、TV版じゃないんだ」となります。

 

では、次はいきなりレベルを引き上げます。

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はい、きました『魔法少女まどか☆マギカ』。

今までにない色があらわれています。
属性カラーとグレーのグラーデーションです。

友達(さやか)や主人公の成長を願う者(キュウべえ)が敵に回ったり、主人公を守ろうとする者(ほむら)が足を引っ張ったりと、その立ち位置がコロコロ変わります。
この目まぐるしい立ち位置の変化が、現代の物語の特徴です。
端的に言えば、複雑なのです。

しかも、主人公の真の敵は、魔女ではなく、魔女を再生産する「因果律」というシステム。
因果律」という線形システムを「円環」という環状システムに作り変えるという‥‥‥
これはお子様の理解力をはるかに逸脱していますね。
これぞ『まどマギ』世界観の真骨頂。

しかも、まどかの周りを見てください。
シンプルに味方なのはマミさんだけ、それも途中でマミるし。
まどか、八方塞がり(笑)
彼女の最大の魅力は、ここまでサディスティックに追い詰められるマゾっぷり。
この作品で変な性癖に目覚めたひとも多いのではないでしょうか。
うーん、まどか、可哀想。

 

一方で、まるで「敵対者」が登場してこない作品もあります。
それが、一連の「日常系」アニメ。

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素晴らしいですね!
これといった「指導者」も「敵対者」も存在しませんし、もちろん寝返るやつなんざぁ、ひとりもいません。
あのふわふわした世界観の正体はまさにこれなのです。
でも、わたしは大好きです。
これはひとつのファンタジーですよね。
会社という世界もこんなだったら、最高なのに!
劇場版では、唯が百合かと誤解した梓や教室ライブをやめさせようとした男の先生にちゃんと「敵対者」属性が与えられていて、ちょっとした緊張感をもたらしました。
これも『ドラえもん』のところで書いた、属性のチェンジです。

 

このようなチャートを作っておき、役割(性別、職業、年齢など)や属性の変更、あるいは要素の追加、削除を行うだけで、比較的簡単に物語の基本構想は練れるのではないでしょうか。
物語を作るうえで本当に大変なのは、個々のキャラクターの造形や具体的なエピソード構築にありますが、この手法がみなさまのお役に少しでも立てばと思います。

また、「このキャラクターの属性は、実はこうじゃないか、ああじゃないか」とか「こういうキャラクターも普遍的に存在するんじゃないか」といった議論も深めてもらえると、創作の世界がもっと実りあるものになると思います。

 

以下は参考図書。
この手の本は、世界におそらく数百冊を数えるでしょう。
ですので、自分が信じるものを読むのが一番だと思います。
一番上の筒井康隆『創作の極意と掟』は読みやすいうえに、かなり勉強になります。
下に行けば行くほど、難解になってくるので、承知のうえでお読みください(笑)

 

創作の極意と掟

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千の顔をもつ英雄〈上〉

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千の顔をもつ英雄〈下〉

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小説の理論 (ちくま学芸文庫)

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