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Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【雑 文】アメリカ中西部を浮かびあがらせる物語たち

 アメリカ中西部と言われても、日本に生まれ育ったわたしには土地勘がありません。太平洋、大西洋に面した沿岸の地名ならいくらか心覚えがあるものの、だだっ広い内陸については白地図も同然で記憶の砂漠だけがどこまでも広がります。

 

「中西部」という字面を見て、アメリカのへそにあたる場所(それがどこかは知りませんが)から西に広がる一帯(ユタとかネバダとかですね)を想像していたら、実は北東部のあたりを指して「中西部」と呼ぶことを知りました。

 

 十八世紀、アメリカは今よりずっと小さかった。乱暴に言えば、今の東半分しかありません。ですから、大西洋岸に固まり暮らした最初のアメリカ人たちにとって西の果てとはまさに今のアメリカ中央部を意味しました。そうした関係から現在も中央部から北東へ広がる一帯を「アメリカ中西部」と呼ぶのでした。

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「THE MIDWEST」と書かれた場所がアメリカ中西部です、念のため。

 

 開拓の当初から農業が根付き、宗教的にもプロテスタントが優勢なことから、ひとびとは良く言えば我慢強く、悪く言えば頑固な気質を備えているといいます。政治においても保守的な色合いが濃く、もちろん共和党の有力な支持基盤であります。

 

 

 これらはいずれも中西部の州を舞台にした物語です。やや手前味噌な集め方かつ乱暴な方法で申し訳ありませんが、イメージを鷲掴みしてもらうにはちょうどいいかと思います。どの作品にもせかせか生きる現代人が失ってしまった、ひとがひとらしく生きていた時代の手触りが感じられるでしょう。かつての辺境であった中西部は、今やアメリカ人にとっての古き良き時代の心象風景を織りなす場所なのです。

 

 ですが、ここからアメリカ中西部のもうひとつの顔を紹介しましょう。

 

 作品の多くにメイン州を用いるスティーヴン・キング。その彼が『1922』では舞台にアメリカ中西部のネブラスカを選びました。主人公の、ときに頑固にもなり得る粘り強さと農業への思い入れに端を発する土地への執着こそが悲劇の導火線になります。

 

 タイトルの1922とは、お察しの通り西暦1922年のことです。世界が1929年の世界大恐慌に突入するまでの1920年代、アメリカは未曾有の好景気を迎えました。現代へと続く大量生産・大量消費の基盤が構築されたのはまさに1920年代のことだったのです。(→F.L.アレン『オンリー・イエスタデイ 1920年代・アメリカ』)

 

 そのありさまはあたかも1980年代のバブル景気に湧く日本を見ているかのようです。事実、1920年代のアメリカはバブルでした。株価も土地も爆発的に高騰し、自動車がちまたに溢れ、誰もがショーやスポーツ、そして当時はラジオといった娯楽にうつつを抜かしていました。本当にどこかで見たような光景ですね。つくづく日本は何十年遅れでアメリカの後塵を拝しながらえっちらおっちら今日までやってきたことを思い知らされます。

 

 主人公たちの暮らしのそばにまでそんな「バブル景気」は押し寄せます。豚肉加工をなりわいとする大企業が、主人公の女房が親から遺産相続した土地を事業拡大のために買収しようとします。夫が所有する土地と妻が遺産相続した土地は幸か不幸か地続き。両者の土地をひとまとめにして農場経営をしたい亭主と土地を売っぱらって都会で暮らすことを夢見る女房。

 

 女房を殺してでも、そのためには愛息を巻き込んででも、決して農業を手放すまいとする男のエゴ。狂気にも似た男の「哲学」をエッチングするには、アメリカのなかでも特に保守的な気質で知られる中西部の人物造型とそれを裏支えする風土をキングは必要としたのでした。

 

 アメリカが世界恐慌に見舞われた1930年代、次々と押し寄せる苦難に抗い続ける家族たちがやはり中西部のオクラホマにいました。(→ジョン・スタインベック怒りの葡萄』)『1922』の主人公もまた彼らと同じ血脈に生きる者なのです。

 

 物語のなかで井戸が不吉の象徴として描かれます。丸呑みされた種々の罪業はぐずぐずに腐敗し、今や個々の輪郭をとどめません。呪詛の混沌の震源なのです。女の秘密をその底に横たえ、そっと唇に指をあて沈黙を守ったもうひとつの井戸と一見似ていますが、逢着する結末は天と地ほども異なります。(→スティーヴン・キングドロレス・クレイボーン』)『1922』にあったのは男のエゴであり、『ドロレス・クレイボーン』にあったのは女の母性でした。

 

 解説を読みます。

 

「「1922」の着想を得たのは、Wisconsin Death Trip(Michael Lesy, 1973)という写真集だったとキングは後書きで告白しています。この写真集は、一八九〇~一九一〇年代のウィスコンシン州の田舎町写真と当時の新聞記事とで構成されたもので、そこにマイクル・レシーが解説を加えています。犯罪や疫病や貧困といったネガティヴなできごとに暗く彩られた、二十世紀初頭のアメリカ中西部スモールタウンの様相を伝える一冊になっています」

 

 古き良き時代<ではない>アメリカ中西部を垣間見せてくれるらしく大いに興味を惹きつけられるのですが、残念ながら今手元にはありません。近々入手予定ですので、見たらまたブログでご報告しますね♪

 

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