【雑 文】ドイツ語はなぜカッコイイのか、思いつきで書き始めたら2000字を超えちまったよ
過去に書いた「ネーミング」に関する本の紹介記事が好評でしたので、今回はわたしが学習したことのあるドイツ語について、なぜドイツ語をカッコよく感じるのか、多分に偏見を駆使して解説しました。
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語感というのは、最初は変だと思っていても、耳馴染んでくると良さ気に思えてくるものです。とはいうものの、なぜか最初からカッコイイ響きというものがあることも否定はできず、日本人にとってはドイツ語がそれを代表するようです。
いつぐらいからなのでしょう、日本のヲタヲタのあいだでドイツ語風のネーミングがもてはやされるようになったのは?
やっぱり『銀英伝』?
わたしは観たことがないので、ちょっと調べてみましたが、ラインハルト、キルヒアイス、ヒルデガルド、ロイエンタール、ファーレンハイト、アイゼナッハ……、おお、ぞくぞくとドイツ語があらわれますね。すごいですね。
それでは、ドイツ語がなぜカッコよく聞こえるか考えたことがありますか?
濁音が多いのは、よく指摘されることです。ゲーエン(行く)、デンケン(考える)、ベルゲン(救出する)、ヴィッセン(知っている)、シュテルベン(死ぬ)、シュライベン(書く)……ちょっとした動詞を並べただけでも濁音がいくらでも出てきます。ドイツ語を勉強していて、一番すごかったのはゲーエン(行く)の過去分詞形<ゲガンゲン>ですね。
濁音がカッコよく聞こえる理由に、まずは単純な重低音効果があります。「ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ」や「バ・ビ・ブ・ベ・ボ」の音を裏声で言ってみてください。発音しづらいうえに、発音したとしても「ガ」が「カ」に聞こえたり、「バ」が半濁音「パ」に聞こえたりしませんか。濁音を効果的に発音するには、どうしてもトーンをさげざるを得ないのです。
それと濁音がカッコよく聞こえる理由をもうひとつあげるなら、発話者の「ため」があります。「ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ」や「バ・ビ・ブ・ベ・ボ」の音というのは、口のなかで、あるいは唇のところで空気を一瞬「ため」てからそれを破裂するように音を出しています。少し口に意識を集中したらわかると思います。
この「ため」の部分があることで、発話者はこれから話す言葉についての心理的な「見栄」を感じることができるのでしょう。漫画やアニメの主人公が決めポーズを取るようなものですね。ほんの一瞬のことですし、日常的に話しているドイツ人がそう感じているかは分かりません。こうした音が少ない言葉を話す日本人にとっての音響的心理効果だと思います。
ですから、重低音効果をあげたい、なおかつ「見栄」を決める必要がある一部の職業の方々が濁音を多用するのです。たとえば、「このガキャあー!」「ドグサレが!」「ブチ殺すぞ!」「どアホが!」「しばいたろか!」「おどれはなに言うとんじゃい(「何言うとんの」だと効果半減)」「バラすぞ、ゴルァ!」、このくらいにしておきましょう。
同じ濁音の系列にありますが、半濁音は軽すぎてダメです。ことによるとバカみたいに聞こえます、あくまで日本人目線(耳?)ですが。ペェーッ(8)、コンジープン(日本人)、スゥカパープ(健康)、ポンラマーイ(果物)、パク(口)などなど、タイ語のネーミングが普及しないのは何となくわかる気がしますね。まあ、慣れればそうでないのかも知れませんが。
また、濁音でも「ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ」は少し発音の種類が異なります。「ダ・デ・ド」の音と比較するとわかると思いますが、「ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ」は舌が口のなかのうえ(口蓋といいます)につきません。口蓋と舌のあいだを空気がすり抜けるかたちで音を出しています。ドイツ語はこの種の音も多いです。ゼーエン(見る)、ゼンデン(送る)、ジンケン(沈む)、ジンゲン(歌う)、ジッヒャーハイト(信頼性)、ザムスターク(土曜)、ゾンターク(日曜)など。
この「ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ」は単独で用いてもそれなりの効果が感じられますが、やはり先にご紹介した「ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ」や「バ・ビ・ブ・ベ・ボ」と共に用いると、かなりの威嚇になります。ベルゲン・ベルゼン、カイザーヴァルト、グロース・ローゼン、ベウジェツ、エーベンゼー、ザウルガウ……これらは全部強制収容所の名前なので、キャラクターの名前につけるのはやめましょう。
次に、ドイツ語をドイツ語らしくさせているのは、語頭・語中にくる「アイ」「アウ」の音でしょう。口を大きく開いてから閉じる。これだけのことで発話者は話すことに高揚感を感じるのです。たとえば『銀英伝』のラインハルト。ラインハルトには、ラインの「アイ」、ハルトの「アウ」、ふたつ入っていますね。
ほかにも。
キルヒアイスは「アイ」、ヒルデガルドは「アウ」、ミッターマイヤーは「アイ」、ファーレンハイトは「アイ」、アイゼナッハは「アイ」、ゴールデンバウムは「アウ」、シュタインメッツは「アイ」、オーベルシュタインは「アイ」。人名よりもやや少なめですが地名にも、アウグスブルク、ライプツィヒ、シュトゥットガルト、マンハイム、ダルムシュタットなどがあります。
また、ドイツ語の「サ・シ・ス・セ・ソ」は先に挙げたような「ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ」と濁るほかに、「シャ・スィ・シュ・シェ・ショ」の音に変化するケースが多いです。これらの特殊音が日本語にないわけではありませんが、これを多用するドイツ語が日本人には新鮮に聞こえるのかも、とドイツ語学習者だったわたしは思うわけです。
シュタイン、シュタット、シェーン、シャーデ、シャハト、シュリュッセル、シュロス、ショース……きりがないのでこの程度で。
「ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ」の語尾での多用もドイツ語の特徴なのですが、これは何か気が抜けるのであまりいかしてるとは言えないでしょう。いかにもドイツ語らしい音ではありますが。イッヒ、ディッヒ、ドッホ、ライヒ、ノッホ、ナッハ、ブーフ、ロッホ、ザッハなどなど。
従いまして、最後に挙げた特徴以外、「シャ・スィ・シュ・シェ・ショ」と「アイ」「アウ」、そして濁音を駆使してドイツ語を作ってみましょう。
シェーンベルク、シュタウフェンベルク、ゲシュタルト、ゲゼルシャフト、ゲマインシャフト、ヴァイドラー、シュナイダー、ゲルハルト、ダイスラー、シュヴァインシュタイガー、ヴァイデンフェラー、ほらほらドイツ語っぽいでしょ。
ドイツ語が耳にカッコよく馴染むには馴染むなりの以上のような理由があるのです。ほんまかいな、てへ♪ ちなみにこういうことを言語学的にはプロソディと呼びます。
ネーミングに関する書籍いろいろ(やけに学研が多いような):