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Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】創作志望者には目からうろこがてんこもり-『創作の極意と掟』

 本 

創作の極意と掟

 

筒井康隆さんももう80歳!

まだまだ元気にご活躍できるよう祈っております。
しかし、一途に仕事を続けてきたひとほど、高齢になると、自分の技術を次世代に伝えたくなるもの。

そんな筒井さんが創作の技術やヒントを一冊の本にまとめてくれました。
その名も『創作の極意と掟』。

 

本の帯なんて、そりゃ売るために、良いことしか書いてありませんて。
でも、町田康さんが

手を伸ばして
届くところにこの本を
置いておこうと思っています。
守り本尊って感じで。

ついでに、伊坂幸太郎さんが、

さっそく、
行き詰っていた
短編の突破口が見えました。

一歩間違うと、自己啓発セミナーに参加したひとのコメントのようにも思えますが、実際に読んだわたしも「守り本尊」として棚に並べてしまいました。とても参考になる。

 

創作の「極意」と「掟」は全部で31あります。
今日はそのなかからいくつかピックアップ。

 

【破綻】

これを「はじょう」と読むひとがいますが、「はたん」です。Google IMEは「もしかすると、はたん?」と聞いてきます。プログラムに聞かれるのも恥ずかしいので覚えてしまいましょう。

破綻にもいろいろ種類があります。わたしたちアマチュアで一番多いのはストーリーの破綻。要するに、構想を深く練らずに書き始めてしまい、途中でどうにも辻褄が合わなくなる。

筒井さんが実例を挙げます。
主人公の仲間がひとり、敵の捕虜になってしまいますが、物語は彼を救出せずに終わってしまう。ところが、ラストで主人公たちが喜ぶなかに捕虜になった仲間がいる。

これに気付いた編集者が作家先生に書き直しを頼みます。そうしたら、おまえが書けと言われ、編集者が救出の一章を書き加えたというオチつきです。

新人ほど、しっかり最後まで構想を練り、書き始めなさい、ということです。

 

【表題】

ずばりタイトルのことです。内容がオリジナルであれば、タイトルくらい似ていてもいいだろう、とわたしたちは考えるかもしれません。しかし、プロともなると、結構神経を使うそう。

筒井さん自身『母子像』というタイトルを久生十蘭氏の名短篇と同じだと知らずに使ってしまい、冷や汗を書いたと告白しています。

もうどうしてもそのタイトルしかないんだ、しかも名作というので限り、タイトルの類似は避けるのが吉、とのこと。

一例として、
マルケス百年の孤独
大江健三郎同時代ゲーム
ブラッドベリ『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』
檀一雄『火宅の人』
丸谷才一裏声で歌へ君が代
ヴォネガット『猫のゆりかご』などなど。

「カッコいいじゃん」「クールじゃん」と思ってうかうか使うと、プロの作家や編集者たちからは冷ややかな目で見られてしまいます。

 

【省略】

小説は、詩歌などと同じく省略の文学形式である。

写真や映画とは違う小説は、目に映るすべての情報を読者に伝えることができません。いや、全部書いたって構いませんが、そうなったらもう小説として破綻します。

物語の効果をあげるために、何を残し、何を削るのか。「ある日」とさえ書けば、それで書く方も読む方もそれがいつなのかわかった気になります。これをいちいち「平成26年5月28日の午後3時16分のこと」とやられたら、何の実験小説かと思いますよね。素晴らしい言葉です、「ある日」。

米澤穂信さんの『インシテミル』が好きになれなかったのは、小説内で繰り広げられるゲームのルールがこまごまと説明されているからでした。読者に物語が伝わらないからしようがないのですが、そうしたルールの周知が前提となる小説はそもそも物語として破綻している気もします。ですから、漫画だと『DEATH NOTE』がダメでした。最近、そういう作品をよく目にするので、自分自身には戒めています。

あ、米澤穂信さんは大のお気に入り作家ですので誤解なく!

 

【細部】

ところが創作の難しいところは、徹底的に書き込む箇所も必要なことです。【省略】と大いに矛盾してるようですが、これは胸像を思い浮かべたらわかります。

顔から胸にかけて作りこむ胸像、あれは顔のインパクトを強めるために手足胴体をばっさり「省略」してしまったわけです。その分、顔の「細部」の作り込みには一切妥協をしない。

トルソーの場合は胸像とうってかわり胴体を残すわけですが、いずれにせよ、何を残し、何を削るかの問題です。

小説もまた、「省略」と「細部」の効果的な組み合わせによって成立するものですが、その視点やボリュームバランスをどう選ぶかが作家のセンス。

 

【妄想】

 理想、思想、空想、構想、予想、夢想、幻想、奇想、追想、人が心に想像するところのものはさまざまな名で呼ばれているのだが、小生、小説を書く者にとっていちばん大切なものは妄想ではないかと思うのだ。

小説のテーマやアイディアになり得るものは、究極的には妄想です。謹厳実直が物語を書いても面白いものは書けません。それは小説ではなく、道徳の教科書だったりします。ただ、世に「むっつりスケベ」の言葉があるように、ぱっと見真面目なひとほど、その心のなかにどのような妄想が渦巻いているかはわかりませんが。

ただ、妄想といっても、江戸川乱歩夢野久作みたいなその道の第一人者をめざす必要はないのです。

 何度か書いたことだが、だいたい妄想には実にアホなものが多い。どんなアホなものかということは、あなたがパチンコをしている時に思い浮かべることを思い出してみればいい。哲学的な思考や数学理論を思いめぐらしながら打っている人はあまりいない筈だ。そのアホな考えたるやあまりにもアホなことなので、時おり身もだえながら打っている人もいるくらいだ。何百人もの人がパチンコをしながら考えているそのアホのエネルギーを全部集めたとしたらそれはもういかにアホか、想像もつかないものがある。そのようにあまりにもアホであるがゆえに、たいていの人はそれを忘れ去ってしまう。だが作家にとってはその「あまりにもアホなこと」を考え抜くことこそ大切なのである。

最近、阿呆についての小説を読んだな、『有頂天家族』。
それはともかく、書いたり、実践しなければ何を妄想したところでひとは逮捕されたり、後ろ指を刺されることはありません。バカらしいと思って、自分で自分の想像力に枷をはめることだけはしないほうがいいでしょう。

 

これら以外にも、あと26個もの創作指南が詰まった本書ですが、驚くのが実例の幅広さ。【表題】のところで作品タイトルを挙げましたが、筒井さんがこれまでにお読みになった作品のタイトルから文章例まで実に情報が天高盛。しかも、森鴎外渋江抽斎』から『もしドラ』までジャンルも多岐にわたっています(ちなみに、筒井さんはラノベに対しても理解があり、実際、70代で執筆しています)。ご自身の読書の幅を広げるためにこの本を利用するのもアリでしょう。

 

いっときよりも書店に並ぶ筒井さんの本が減っている気もするのですが、彼は間違いなく日本が誇るトップレベルの小説家。筒井さんの作品を読んで、ご自身の創作の質を上げるのも良し、本書『創作の極意と掟』にそのためのヒントをあたるのも良し。作家志望のみなさん、ガンバ!

 

創作の極意と掟

創作の極意と掟