Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】創作の「極意」と「掟」、31箇条を極限まで要約-『創作の極意と掟』

創作の極意と掟

 

昨日書いた、筒井康隆『創作の極意と掟』へ興味をお持ちの方が多い。 

just-melancholy.hatenablog.com

 

ですので、今日はこちらに31の「極意」と「掟」を極限まで要約しました。ところどころ、私が解釈を補ったり、作品例を挙げたりしているのでその点はご容赦。

でも、全然内容を盛り込めていないので、興味のある方は、ぜひ実物をお読みください。本書のなかで例として取り上げられた作品名を参照するだけでも価値があるでしょう。やっぱプロとシロウトでは選ぶ作品のレパートリーが違う!

ちなみに、谷川流涼宮ハルヒの消失』は筒井さんがご自身で例として挙げています。70歳で『涼宮ハルヒ』を読むなんて、本当にすごい!

 

  1. 【凄味】
    作品に自信がないと、真面目な作品を書こうとしがち。しかし、真面目が少しズレていて、それを作家本人が変に感じていないとき凄味は生まれる。

  2. 【色気】
    誰かに恋し続けているとき、自然と作品に色気があらわれる。絶対にしてはいけないのは、作家が自分で自分の文章に性的に興奮すること。醜悪。

  3. 【揺蕩】
    書いているうちに作家自身が精神的に成長して、キャラクターの価値観に揺らぎが生じること。批評家に矛盾だとか突っ込まれるが、あまり気にするな。

  4. 【破綻】
    書く前にきちんと考えなさい。適当に書き始めるから、ストーリーの辻褄が合わなくなる。作者自身が死んじゃったという破綻もあるが、これはしようがない。

  5. 【濫觴】
    書き出しのこと。未熟なうちは突拍子もない書き出しはやめよ。最終的に書き出しの出来は作品全体との関係で決まるもの。細かいことを悩むな。

  6. 【表題】
    古今東西、名作のタイトルを安易につけてはならん。でも、「作品1」「作品2」とか現代美術みたいなタイトルをつけると、あとで自分が困るよ。

  7. 【迫力】
    迫力は文章の力によって生じるもの。文章は作家の思考。すなわち、ルーチンワークで文章を書いている作家の文章から迫力は生まれない。

  8. 【展開】
    迫力ある筋運びとテーマの思索、これを共に表現し続けることが展開。良い展開かどうかは読者が決めること。作家は良いと思うことを書くしかない。

  9. 【会話】
    会話は異なる個性のふたりに行わせよ。また、作者の主張を会話で行わせるときに、ふたりが共に作者の代弁者であってはいけない。ただの行数稼ぎ。

  10. 【語尾】
    どういうときに「である」「なのだ」「だ」を使うかは作家のあいだでも百家争鳴。同じ語尾が続かなきゃ何でもいいよ。連続しているメリットもあるけど。

  11. 【省略】
    面倒なシーン、嫌いなシーンの省略はやってはいけない。書けるんだけど書かないという姿勢で省略には臨むべき。省略こそ小説で自由を味わう醍醐味。

  12. 【遅延】
    読者に疑問を持たせることで、関心を引きつける。谷川流涼宮ハルヒの消失』はまるまる一冊遅延という珍しいケース。映画は観ていない。
    涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

    涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

     

     

  13. 【実験】
    第一章はAの単語だけで文を書く、第二章はAとBの単語だけ、第三章はAとBとCだけ……みたいに文字や語りや言葉でいろいろ試しながら文章を書く。

  14. 【意識】
    意識の流れを言語化。ジェイムス・ジョイス『ユリシーズ』、ヴァージニア・ウルフ『波』なんかが代表例。サスペンスやテレパシーものなんかに使えるよ。
    ユリシーズ〈1〉 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

    ユリシーズ〈1〉 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

     
    波 (ヴァージニア・ウルフコレクション)

    波 (ヴァージニア・ウルフコレクション)

     

     

  15. 【異化】
    見慣れたものを非日常表現に書き換え、異質なものに変えること。例えば、「りんご」を「真っ赤な血をまとった不吉のかたまり」みたいに。

  16. 【薬物】
    薬物を使えということではない。過去にはそういう作品もあった。星新一睡眠薬とアルコールの併用で倒れ、以後寝たきりになった。君らは絶対にやるなよ。

  17. 【逸脱】
    小説の約束事からはずれ、筋から逸れたり、主人公が誰だかわからなくなったり。西尾維新物語シリーズ』なんかは、この逸脱の宝庫だね。
    化物語(上) (講談社BOX)

    化物語(上) (講談社BOX)

     

     

  18. 【品格】
    上品とか下品とかいうことではない。自分の書くものに嘘があってはいけない、正直であれ。不倫してるんなら、不倫してると書け。それが作家の正直だ。

  19. 【電話】
    要するに電話での応答を物語にしたもの。ニコルソン・ベイカーの『もしもし』なんてすごいよ、一冊まるまるテレフォンセックスだからね。
    もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

    もしもし (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

     

     

  20. 【羅列】
    単語を並べて効果を高める。そのためには「効果的な」単語を選ばないとダメ。エリス『アメリカン・サイコ』なんて、ブランド品のオンパレード。
    アメリカン・サイコ〈上〉 (角川文庫)

    アメリカン・サイコ〈上〉 (角川文庫)

     

     

  21. 【形容】
    いかなる小説でも絶対に使ってはならぬ形容がひとつ。それは「筆舌に尽くしがたい」という形容だ。筆舌に尽くしがたいのを尽くすのが小説だ。

  22. 【細部】
    小説における細部とは、現代小説では省略と緊密に組みあわされたものでなければ効果がない。細かく書きゃいいというものではない。細部への情熱。

  23. 【蘊蓄】
    Wikiのコピペなど論外。蘊蓄は、あくまでも表現の多様性に奉仕するものでなければ……要するに、本編と関係ない知識を延々と語るなってこと。

  24. 【連作】
    長編小説の形式に縛られず、ひとつのテーマを追求できるのがいいところ。池波正太郎鬼平犯科帳』や杉浦日向子『百物語』など。後者はマンガだけど。
    鬼平犯科帳〈1〉 (文春文庫)

    鬼平犯科帳〈1〉 (文春文庫)

     
    百物語 (新潮文庫)

    百物語 (新潮文庫)

     

     

  25. 【文体】
    文体は作品内容に奉仕するもの。作品ごとに変える作家もいれば、ひとつの文体で押し通すひともいる。レイモン・クノー『文体練習』はぜひ読むといい。 
    文体練習 (レーモン・クノー・コレクション 7)

    文体練習 (レーモン・クノー・コレクション 7)

     

     

  26. 【人物】
    エンタメなどの場合、今、活躍している人物が誰かを読者にわからせるように。文学小説には、トルストイ戦争と平和』、登場人物五〇〇人というのがある。 
    戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

    戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

     

     

  27. 【視点】
    今、物語を話しているのは誰? 物語の中にいる主人公が突然神の視点に立って作品世界全体のことを語るのは掟破り。やってはいけない。

  28. 【妄想】
    小説は最初に妄想ありき。妄想するだけならお金もかからないし、恥ずかしい思いもしない。ぞんぶんに妄想するべし。

  29. 諧謔
    シモネタ、流行語で笑わせるのはレベル低し。諧謔は読者の笑いを呼び、読み続ける意欲を起こさせ、ときには作者の知性をもあらわす。

  30. 【反復】
    象徴、出来事、空想、失敗、時間、儀式、日常、演劇、音楽、行為、回想、映画、ゲーム、人生。反復表現はこれだけあるので本書を読んでください。

  31. 【幸福】
    小説家の不幸。挙げれば数えきれないくらいある。でも、小説家の幸福も挙げれば数えきれないくらいあるよ。だから、みんな頑張ろう。