Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】これだけの顔ぶれが一冊で読めるのは短篇集だからこそ-『短編復活』

短編復活 (集英社文庫)

 

長編小説は、どれだけ興味のある分野でも、ときに重く感じます。

作者が決めたひとつのテーマとじっくり向き合うわけですから、読むほうもそれなりの覚悟が求められます。言うなれば、作者と読者の一騎打ち。

無理して読んでも、読後感にそれだけの余韻が残るならまだしも、アババババな作品をつかまされた日には穏やかなわたしでも本をぶん投げたくなっちゃうわけです。

 

そこへいくと、短篇集はいいです。それもひとりではなく、複数の作家さんによる短篇集。作品によって当たり外れがあるのはしようがないにしても、とりあえず目先が変わるので、飽きずに読み通せます。

今日は集英社の『小説すばる』誌上で発表された短編だけを集めた『短編復活』をご紹介します。

 

まずはざっと、作家さんのお名前を(敬称略)。

赤川次郎
浅田次郎
綾辻行人
伊集院静
北方謙三
椎名誠
篠田節子
志水辰夫
清水義範
高橋克彦
坂東眞砂子
東野圭吾
宮部みゆき
群ようこ
山本文緒
唯川恵

 

帯にも書いてありますが、なかなか豪華な顔ぶれでしょ? 今の時代を代表する作家さんたちばかりです。

作品は、作家さんの名前同様に五十音順で掲載されています。作家さんへのもろもろの配慮を考えたら一番便利な方法なのでしょうが、ちょっと安直すぎる気も。でも、結果として締めにきた唯川恵さんの作品は、のちほどご紹介しますが、ラストを飾るに相応しい「薄気味悪さ」。

 

この豪華な16名の顔ぶれのなかから、今日は半分の8名をピックアップ。ミステリーあり、ホラーあり、コメディーあり、男と女の愛憎あり。この多彩さが短篇集の身上です。

 

赤川次郎『回想電車』
またどんなお手軽ミステリーが描かれるのかとおもいきや、今回はちょこっと毛色の違う作品。終電車に乗った男が自分の人生で巡りあったひとびとと再開するファンタジー。

綾辻行人『特別料理』
ゲテモノ喰い、イカモノ喰いが大好きな主人公は自分の願望を叶えてくれるレストランを神楽坂で発見する。料理は主人公の好奇心を満たすべくどんどんエスカレーションしていく。

北方謙三『岩』
波が高くうねるなかに姿を見せる岩。そこまで競争する若者たちとそれを見つめる男。男はある依頼を片付けるために町にやってきたが、若者たちの泳ぐ姿に自分の人生を重ねあわせる。

篠田節子『38階の黄泉の国』
自分たちの望んだ通りの人生を手に入れたかと思いきや、そこは永遠の牢獄だった。月の照らすホテルの一室。過去にとらわれつづける男と女は、そこに至福を見出せるのか。

清水義範『苦労判官大変記』
『九郎判官太平記』のもじり。九郎判官は源義経のこと。怪力無双で知られる武蔵坊弁慶こそが、本当は義経だったらどうする? 大胆な発想のもとに書かれた一本。意外に泣ける。

坂東眞砂子『盛夏の毒』
やっとのことで手に入れた美貌の妻が浮気をしているのかと疑惑に駆られる男。しかも、彼女の命は刻一刻と全身にまわる蛇の毒で弱まりつつある。そのとき、男が取った行動とは。

東野圭吾『超たぬき理論』
子供の頃に見た空飛ぶ影はたぬきだったに違いない。たぬきへの偏愛は男をたぬき一筋の研究に没頭させる。その結果、ついに男がたどりついた答え。たぬきはUFOだったのである。

唯川恵『青の死者』
愛人の男に頼まれて飼った鯉。同じ水槽に青い鯉を放つと、すべて病気にかかり全滅してしまった。女はそれを期に愛人と別れようと行方をくらました彼のあとを追うが、その結末とは。

 

わたしがことのほか気に入ったのが東野圭吾さん『超たぬき理論』。

ガリレオシリーズももちろん面白いのですが、やけくそになってデタラメを書き始めたときにこそ、東野さんのほんとうの底力があらわれます。デタラメと言ってもそこは一流作家、ちゃんと物語としては完成していますのでご安心を。どうしてこんなわけのわからないことを面白く読ませるんだろうと感心しっぱなしです。

容疑者Xの「純愛」やら「もし虚数解でなければ、僕も勝てない」なんてカッコいいことばかりでなく、やけくそ小説を今後も東野さんには期待したいところ。

 

短編復活 (集英社文庫)

短編復活 (集英社文庫)