Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】素人のアイデアをプロがリメイク、賛否もあった-『箱庭図書館』

箱庭図書館 (集英社文庫)

 

シロウトさんの応募作品を、プロがアレンジすれば、こうなります。
その名も「オツイチ小説再生工場」。
……という企画のなかで誕生したのが、本作『箱庭図書館』。
のっけから友井羊さんの解説文で恐縮ですが、

応募された素人の小説を乙一氏がリメイクするというこの企画は、ネット上で発表されると同時に話題を呼んだ。ただ、賛否でいえば明らかに否が多かった。「素人のアイデアを利用するのか」とか「作家としてどうなんだ」といった意見が、ブログや掲示板に書き込まれた。

ということが背後にはあったようです。

一読した直後、わたしは感心というか、妙に感じました。
収録されている作品のカラーというか、タッチというか、趣きというか、そうしたもの一切合財が作品ごとに違いすぎるのです。こんな書き方ができるものかしら。
解説を読み、腑に落ちた次第。

 

露骨なアイデアの盗用は認められるものではありません。
仮に、他人のアイデアを土台にして小説を執筆するという、本作のような企画が謳われていたとして、やはりアイデアを横取りされたひとからすれば愉快なことではないでしょう。

ただ、わたし個人の感想でいうと、自分のオソマツな作品をプロが味付けしてくれたときに、どこがどのように変化したのか、何を捨て、何を新たに追加したのか、そうしたことの比較検討はすごく興味深いです。

自分で文章を書いていて、ちんぷんかんぷんになるのは、そこに正解がないから。創作の醍醐味は、答えのないところに答えを見いだしていくことですが、やはり暗中模索、挙句の果てに、コーナーに追い込まれるのはしんどい。

自分の未熟さを学ぶためにも、プロが書いてくれた模範解答と自分の作品を比較できる機会があるなら、わたしなどはお金を払ってでもお願いしたい。ちなみに、小説講座などは、プロはアドバイスまでで結局書くのは自分ですから(当たり前っちゃあ、当たり前ですが)。

 

本作『箱庭図書館』には、そうした乙一さんの意図があったのではないかと、友井さんも指摘してます。

乙一氏はリメイク作品を通じて作家志望者たちに「技術を学べば、作品はもっと面白くなる」と伝えようとしているのではないか。

収録された作品は、全部で六作品。
それぞれオリジナルは別のひとたちの手によるものですが、それらをひとつの町を舞台にしたパズルのピースとして再構成した乙一さんの手際はやはり鮮やか。同じ登場人物たちが、少しずつほかの作品に顔出しします。

図書館はひとつの大きな灰色の建物ですが、そのなかにはさまざまなジャンルの物語が肩を寄せあい、息をしています。それはあたかも小さな小さな宇宙のよう。

そんな意味を込めたタイトル『箱庭図書館』、面白かったです♪

 

以下、各作品のヒトコト紹介。 

「小説家のつくり方」

プロになった作家のあとがきに込められた意味と小説家をうみだす秘密とは。

 

「コンビニ日和!」

コンビニ強盗と店員と買い物で訪れた警官たちの物語はどこへ転がっていくのか。

 

「青春絶縁体」

文芸部に在籍する先輩と後輩。罵倒しあうふたりの意外な青春模様。

 

「ワンダーランド」

ひょんなことから死体を目撃した少年とその犯人。彼らが出会うことはあるのか。

 

「王国の旗」

少女が迷い込んだ深夜のボウリング場。そこには子供たちが集う王国があった。

 

「ホワイトステップ」

決して交じり合うことのないふたつの世界。お互いの存在を感知した少年と少女。

 

箱庭図書館 (集英社文庫)

箱庭図書館 (集英社文庫)