【マンガ】ムスメサン ヨクキケヨ 版画男ニャ 惚レルナヨ-『怪奇版画男』
ちょっと前、週刊アスキー印刷版の終了とともに、『電脳なをさん』もまた最終回を迎えてしまいました(週アスはデジタル版として残ります)。
ちょっと下品な回も含め、好きだったなあ『電脳なをさん』。
オマージュ? パスティーシュ? パクリ?
元のマンガ作品を換骨奪胎し、自分の表現のレパートリーに加えてしまうあの手法、読むたびに刺激を受けていました。
そんな唐沢さんの数多ある作品のなかでもひときわ異彩を放っているものがあります。その名も『怪奇版画男』。
全編、版画で描かれているという、見ようによっちゃ、かなり狂気入っている作品。
一回目の冒頭、簡にして要を得た版画男のプロフィール。
「版画男・神出鬼没ニシテ正体不明。その性格 凶暴ナルモ ワダバゴッホニナル」
版画をこよなく愛し、生命すらかける版画男。
その版画へのあまりに深い愛ゆえに、版画をバカにしたり、軽くあしらったりするひとびとへ復讐を……恐らく読んでてもまったく意味不明でしょう。
以下画像を交えてご紹介。
記念すべき、第一話のタイトルページ。
あ、まったく陰惨な作品ではありません。コメディですので誤解なく。
いかがでしょう。
枠線もタイトルも、ノンブル(ページの数字)も全部彫り物です。
ところどころに残る彫り残しがいかにもな感じ。
夜をあらわす白抜き表現も版画だと劇画っぽくて味わい深い。
ざくっと、第五話までのタイトルページをお見せします。
ピカソの劣化コピーのような版画男が、版画への愛ゆえに、毎回々々素っ頓狂な事件を起こすというのが基本パターン。
プリントゴッコと対決したり、野菜判と競ったり、版画でヌードを制作したり、版画アイドルを流行らせようとしたり……。
巻頭を飾る詩は、それぞれ
第一話が、棟方志功
第二話が、指圧師・浪越徳治郎
第三話が、戦前の国語教科書
第四話が、武者小路実篤
第五話が、おなじみ宮沢賢治
が下敷きになっているというマニアックさ。
折り目正しいはずの言葉たちが、この漫画に用いられると鬼気迫るちからを発揮するのはなぜでしょう。
ちなみに、うえで名前があがった棟方志功さんが版画男の元ネタ。棟方志功が唐沢なをきをパクってるとか、とんでもないことは言わないように気をつけましょう。
※これは版画男ではなく、棟方志功さんの作品。
悪ふざけは続きます。版画ではなく、魚拓だったり、
その鯛の経費の領収書を添付したり、
指紋を登場人物にしたり、
版画でカラーだってできちゃう。
もうやりたい放題なわけですが、圧巻は子供の夏休みの絵日記。
ラストに子供が腱鞘炎で寝こむというオチに腹を抱えました。
表紙の帯では、京極夏彦さんが大絶賛。
京極先生、こういうの好きそうだもん。そのうち、自分の小説でやりそう。
新作は「描き下ろし」じゃなくて「彫り下ろし」っていうんだ。
っていうか、帯まで版画という凝りよう。
本の世界から活版印刷はすでに遠く、マンガだって今やフル・デジタル環境で制作できてしまう。そういうご時世において、超アナログな手法で生みだされた『怪奇版画男』。今一番熱いのは、こうした手作りですかね?! あ、わたし、子供のころ、版画で金賞をもらったことがあったりして。