【 本 】使って、愛でて、保管する? 読むと欲しくなるブックカバー-『こだわりのブックカバーとしおりの本』
海外の書籍を見たときに、ハードカバーのように値が張る本でなければ、表紙がつくことはまずありません。文庫などのお手軽な本にまで表紙や栞の紐(スピンといいます)がつくのは、日本だけでしょう。それでも本の機能面を優先するひとは、表紙や帯などは読む際に煩わしいだけですから、さっさと外し捨ててしまいます。
表紙や帯ですら不要なひとにとって、書店ごとにデザインを凝らしたブックカバーなどは贅沢の極み……というか、もはや理解不能の域にある代物でしょう。無駄だ、不要だ、不経済だといった声があり、確かにそうした面も否めません。ですが、あのブックカバーにこそ、日本人らしさが凝縮されているようにも思えます。
自分が読んでいるものをわざわざ周囲に喧伝して回らないナイーブさ。ある種の韜晦。また、表紙が汚れるのはともかく、本そのものには一切汚れをつけたくないという潔癖さ(売るため?)。それから、本の表紙よりも書店でつけてくれたブックカバーにこそ、審美的な価値を認め、それを楽しむというマニア的官能。
これ、書いてて思ったのですが、昔の「おたく」と呼ばれたひとたちのタイプにどこか似通っていませんかね。やや違うかなと思うのは、昔の「おたく」さんは自分の知っていることを決して韜晦しない点。岡田斗司夫さんに言わせれば、彼らは知っていることを洗いざらいぶちまけるようでしたし、それがひとつのステータス。
さて、まえおきが長くなってしまいましたが、今日ご紹介するのは『こだわりのブックカバーとしおりの本』。まんまの内容ですが、クリエイターや書店員がお気に入りのブックカバーをずらっと並べています。それにしても、本の中身や表紙ですらなく、その外を覆うブックカバーに焦点をあてるとは、どれだけ通好みなんだと。
本書の構成は、大きく以下の三つ。
この途中々々に本屋さんがつけてくれるブックカバーが紹介されます。
- クリエイターのこだわりブックカバー
- 書店員&ブックカフェ店員のこだわりブックカバー
- みんなの愛するしおり
まず最初は、イラストレーターというよりも仏像研究家としてのステータスが確立してしまったみうらじゅんさんのオススメブックカバー。これもやはり仏像です。しかも「空海と密教美術展」でしか販売されていない、限定ブックカバー。いきなり入手不可。大威徳明王というらしいですが、全然わかりません。「こだわり」にもほどがあります。
京都を中心に展開する大垣書店のブックカバー。オススメするのはイラストレーターであり、かつこのイラストを描いた中村悠一さん。イラストが森見登美彦さんの著書の表紙を飾っていますよね。で、こちらもステキ。女の子が足を浸しているのは鴨川かな? モノトーンがイラストの細かさに目を向けさせてくれます。
漫画家・西島大介さんのイラストをあしらったこちらのブックカバー、女の子たちは吉田隆一さん率いるジャズバンド「blacksheep」のマスコットキャラだそう。その名も「羊子ちゃん」。黒という硬質な色彩とイラストの可愛らしさのミスマッチが絶妙です。
こうした個性的なブックカバーのなかで、あえてスタンダード推しなのは、プロダクトデザイナーの芥陽子さん。ちょっと立ち止まって考えてみると、「紀伊國」を「きのくに」と読ませるなんて結構知的ですよね。しかも「国」の字が「國」になっている。こういう漢字に対するこだわりをいろんな業種のお店に持っていもらいたいなあ、と思います。
漫画家・横山裕一さんは、ご自身のマンガ制作のなかで使用したコピーをそのままブックカバーにしているそうです。カバーのためにデザインしたわけでもないのに、図らずもおしゃれなものができあがっています。ロシアン・フォルマリズムみたいな? ま、わたしたちサラリーマンが会社の書類で同じことをしたら、懲戒免職ものですが(笑・藁)
ここまでご紹介したなかに、紀伊國屋書店のものがありましたが、書店で本を買ったときに無料でつけてくれるものにも、目を惹くものがたくさんあります。
あゆみBOOKSのこちらはすごいですね~♪ このまま額に入れて飾っておきたいくらいのイラスト・クオリティ。しかも、カバーのサイズごとにイラストが変わるという手の込みよう。全点、お見せしようかと思ったのですが、それをすると本書が売れなくなってしまいますのでご容赦を。
昔のタロー書房は汚かったですが(味があるとも言う)、今はコレド室町の地下に入り、ムチャクチャオシャレになりました。最近はとんとご無沙汰なのですが、これをもらうために買いに行ってもいいかな。ちなみに、タロー書房のお店のロゴは岡本太郎さんがデザインしています。
サマセット・モーム『月と六ペンス』は、ホモがエイズになってグズグズに腐って死ぬシーンがあり、「うおっ!」と思ったのですが、こちらはそんなこともなく。建物のシルエットもミニチュアっぽくて可愛らしいですが、それを見守るがごとく空に浮かぶ三日月にイマジネーションが羽ばたきます。
「谷根千」エリアの千駄木にある往来堂書店。過去に何回か行ったことありますが、普段なら目が素通りしてしまうような本が、並べ方ひとつでがぜん光り輝くことに驚きました。使われている平仮名は和歌集から集めたものだそうです。平仮名とアルファベットの重なりに、ひとの知性の奥行きを感じます。
本書では、読書には欠かせないしおりについても少しですがページを割いています。
新潮社のパンダのしおりは、しおりのイラストに合わせて上端のカットが変えてあり、なかなか小細工が利いています。どのくらい種類があるんでしょうかね。
貸出カードになっているやつ。初めて見たとき、すぐさま買おうとしたのですが、本を返却せず図書館から嵐のような催促をされた悪夢がよみがえり、手が止まってしまったということです(他人事みたいに言うな)。
日本人は、ほかの国々と比較したときに、そのものズバリを楽しむよりも、周辺情報だったり、裏情報だったり、製作過程であったり、微妙な違いだったりを、ことのほか好む国民だと思います。本よりも、それを飾る表紙であったり、さらにその保護のために取り付けられるブックカバーだったりがスポットライトを浴びるって、本当に日本人らしい嗜好です。
最後になりましたが、わたしが最近買い求めたブックカバー。
もちろんテーマは、野口雨情が作詞した童謡『赤い靴』。
赤い靴 はいてた 女の子
異人さんに つれられて 行っちゃった
横浜の 埠頭から 汽船に乗って
異人さんに つれられて 行っちゃった
あまりの気に入りっぷりに、汚すのが怖くて使えないという、ブックカバーのアイデンティティすらも否定する日本人さくらさんでした。