Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】伝統ある古典部の再生、シリーズ開幕-『氷菓』

氷菓 (角川文庫)

 

今さらという声が山ほど聞こえてきそうですが、米澤穂信さんの『氷菓』をご紹介します。米澤さんの作品では、以前『さよなら妖精』を紹介しました。というのは、こちらはアニメ化されていないからです。『氷菓』のほうはアニメになり、一定(アニオタ)層の人口に膾炙しました。京アニのキャラデザが素敵で、えるちゃんなどはかなりのインパクト。いまだもって、彼女の「わたし、気になります」が、佐藤聡美さんの声で脳内にリフレインされます。

 

無駄なことには一切関わろうとしない、省エネ人間・折木奉太郎が神山高校に入学したところから始まる学園ミステリー。怖い姉貴の指示で古典部への入部を決めた奉太郎のまえにひとりの少女があらわれます。少女の名前は、千反田える。彼女の前でちょっとした日常に潜む謎を解き明かしたことから、奉太郎は彼女の親族にまつわる真相解明を依頼されます。しかし、そこには千反田のみならず奉太郎をも苦い気持ちにさせる秘密が封印されていたのでした。

 

あーだこーだ不満を漏らしつつも、最後は千反田さんのペースにまきこまれる奉太郎。えるちゃんの具体的な描写は「楚々とか清楚」「黒髪が背まで伸びていて」「セーラー服がよく似合っていた」「背は女にしては高い方」「くちびるの薄さ」「頼りない線の細さ」「瞳が大きく」と実に微に入り細をうがっています。ちゃんと見ているじゃん、奉太郎。無駄なことはしない省エネ主義者だったんじゃないのかね? こんな可愛い子のお願いをむげにはできませんって。

 

奉太郎の友人・福部里志によれば、彼女の苗字である千反田は、四名家の一角をなすのだそう。ちなみに、四名家とは、

  • 荒楠神社の十文字家
  • 書肆百日紅
  • 豪農千反田家
  • 山持ちの万人橋家

家名の「十・百・千・万」を指して「桁上がりの四名家」。校舎の隅に部室を設けられているマイナークラブ、古典部。その古典部に入らなければ出会うことはおろか、知り合うこともなかったであろうふたり。ふたりの出会いが日常をミステリーに変えていきます。

 

アニメでも「わたし、気になります」が名セリフとなりましたが、えるちゃんの特徴は、その無類の好奇心。本シリーズは、そんな彼女の好奇心に省エネ型の奉太郎が振り回されるかたちで物語が展開します。これはずっとあとの話になりますが、面倒くさいと愚痴りながらも断りきれず千反田に協力する奉太郎の鈍感さをもうひとりの登場人物・伊原摩耶花があざ笑います。もう少し奉太郎が素直ならふたりの仲は、あっという間に?

 

米澤穂信さんは前作の『満願』が山本周五郎賞を受賞、ミステリーランキングでも軒並み1位を取りました。まもなく最新作『王とサーカス』も発売になります。ご活躍がこの先まだまだ期待される作家さんです。そういえば、文庫で『リカーシブル』も発売されていましたね。

 

ひとが死ぬのが苦手、血が飛び散るのが苦手、とにかくワル全般が苦手。こういうひとに、本作を含めた『古典部シリーズ』をオススメします。基本、学校を舞台とした、学園「生活」ミステリーなので、クレーンからひとが吊るされるとか、ばらばらに解体されるとか(by. カエル男)、そういうのは一切なしです。そのくせ、ひとつの物語が終わるときの余韻の苦さといったらありゃしない。本作が青春ミステリーと称されるゆえんです。

 

これ以降、シリーズの全作品を紹介していくつもりですが、まずは奉太郎とえるちゃんの馴れ初め(?)である本作は読んでおく必要があるでしょう。なぜ、彼女は古典部を選んだのか、古典部が発行する文集「氷菓」がもつ真の意味とは。そして、彼女が奉太郎にお願いをした親族にまつわる謎とはいかなるものか。今回はあまり紹介しなかった福部里志伊原摩耶花についても次巻以降で触れることになるでしょう。古典部シリーズ開幕!

 

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

 
リカーシブル (新潮文庫)

リカーシブル (新潮文庫)