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Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】「手短に」はいかない、「遠まわり」するから青春なんだ-『遠まわりする雛』

 本  米澤穂信

遠まわりする雛 (角川文庫)

 

氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』と長編が続いてきた古典部シリーズは、ひとまず3巻目にして一段落。シリーズ第4弾となる本作は、初の短篇集。主人公・折木奉太郎とヒロイン・千反田えるが出会った4月から春休みまでの一年間がさまざまなテイストの短編で綴られます。一学期、夏休み、二学期、冬休み、三学期、春休みと時間が少しずつ進むうちに、登場人物たちの心にもかすかな揺らぎ。んー、青春!(←何度目?)

 

省エネをモットーにする奉太郎にとって、何にでも好奇心を抱くえるちゃんは極めて「非効率」な存在。そんな彼は、ときに彼女を疎ましく思ったり、ときに彼女の気持ちに水をさしてみたり。相手を意識するほどぎこちなくなる振る舞い。だれもが「男の子」や「女の子」であった時代に経験したことでしょう。でも、相手の素顔を知るうちにそうした頑なな心も雪融けし、春のせせらぎが顔を覗かせます。目にはさやかに見えねども、着実に。

 

えるちゃんの怒る一面が見られたり、兄弟に対する憧れが明かされたり、あるいは、女性としての恥じらいがかいま見られたりする本作は、それだけでも読んでいて楽しいのですが、圧巻は終章「遠まわりする雛」。そこで訥々と語られる彼女の「郷土愛」。表面的にはそのことを彼女は否定しますが、清濁併せ呑むからこその本当の「好き」なのです。ヒトでもモノでも、良いところだけを見ているうちはまだまだなんですね。えるちゃん、深すぎる。

 

それからこれはわたしからの個人的なオススメですが、「正体見たり」を読んだあとは、ぜひアニメ『氷菓』の同タイトル作品(第7話)を鑑賞していただけたらと思います。基本的には同じストーリーですが、少しだけ、本当にほんの少しだけアニメのほうに手が加えられています。この点がファンのあいだでも非常に好評でした。これ、順番が大事です。必ず小説→アニメ! 逆にすると、効果が半減してしまいます。必ず小説→アニメ!

 

解説で本作の元ネタがいくつか紹介されています。『手作りチョコレート事件』『九マイルは遠すぎる』『十三号独房の問題』など。どの作品もわたしは読んだことがあって、それが少しだけ嬉しくも。実は、わたしの母親がミステリー好きなので、その影響をこうむっています。それにしても、プロの作家さんだってほかの作品からアイディアを借りたり、翻案を行ったりするのですから、わたしもその姿勢を見習わねばと思いました。

 

米澤さん自身の解説によると、若い時分には「今日」という日が永遠に続くような錯覚があって、それは物語の時間を止めてしまいたいという思いにもあらわれていたそうです。しかし、ひとの世は何事も「諸行無常」。良くも悪くも変化します。そんな米澤さんは、本作において過ぎゆく時間との和解が果たせたように仰っています。前三作でミステリーに翻弄された登場人物たちの心の成長が楽しめる、そんな『遠まわりする雛』をお楽しみください♪

 

遠まわりする雛 (角川文庫)

遠まわりする雛 (角川文庫)