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Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】お前らみんな地獄に堕ちやがれ-『チャイルド・オブ・ゴッド』

 本 

チャイルド・オブ・ゴッド

 

幼いときに家族を失ったせいなのか、その奇行が有名なレスター・バラード。競売で自宅も失い、山中のあばら屋に移り住む。夜には氷点下にもなる酷寒に毛布一枚。針金ハンガーに突き刺したジャガイモの薄切りをランプの炎で炙る。口に入れると灯油の味がする。そんなものが食事だった。

 

ある日、車のなかで死んでいるカップルを発見したレスターは、女を屍姦したうえで自宅に持ち帰る。女に口紅を塗り、服を着せる。ところが、火の不始末から彼女はおろかあばら家をも失う。彼は、さらに山奥の洞窟へと移り住んだ。社会からどんどん孤絶していく男は、歪んだ欲望を加速させる。

 

句読点のほとんどない文章の読みづらさに最初は辟易するでしょう。しかし、散文的に物語を伝えたくないというマッカーシーの意図を読み取ることができれば、物語の印象も変わります。説明的に、解釈的に伝えたのでは、物語に嘘が多くなる。読み解いてほしいのは、流れなのです。

 

それは、こんな文章の工夫にもあらわれています。レスターの内面描写は一切ありません。そして、物語も印象的なカットとカットを大胆につなげた映画のような体裁になっています。親切な本を読み慣れた読者の眼には、大胆な省略が新鮮かつスタイリッシュに映ることでしょう。

 

ひとは社会とのつながりを喪失すると、非常にキレやすくなります。ここ10年くらいで65歳以上の老人たちの刑法犯検挙者数が増えていることを過去にご紹介しました。俗に「暴走老人」と呼ばれているひとたちのことです。気に入らないことがあると、すぐに暴力をふるう老人。

 

「警察に捕まれば、友人・知人・親族に迷惑がかかる」という気持ちを「社会性」といいます。ところが、迷惑をかける相手、すなわち「友人・知人・親族」が周囲にいなくなれば、ひとは犯罪に手を染めやすくなります。こうしたことがレスター・バラードにも起きているのです。

こんな記事もありました。

 

またちょっと例は変わりますが、精神病患者を長くベッドに寝かせ、放置しておくと、荒廃という、周囲の刺激に対して無反応な状態に陥ることがわかっています。これなども、周囲との関係を取り結べなくなったひとの心が、以下に脆いものであるかを示しているといえるでしょう。

 

タイトルの『チャイルド・オブ・ゴッド(神の子)』は、レスター・バラードのことを指しますが、特別な人物の意味ではありません。「神は自分のかたちに人を創造された(創世記1.27)」といいます。つまり、「神の子」とは、同じ神から生まれた「あなた」であり、「わたし」のこと。レスター・バラードは、わたしたちのことだと言っているのです。以下のセリフも印象的です。

昔のほうが悪い奴が多かったと思いますか、と保安官補が訊いた。
老人は水に浸かった町を眺めやった。いやそうは思わんね。人間てのは神様がつくった日からずっと同じだと思うよ。

 

コーマック・マッカーシーの名前を知らないひとでもハビエル・バルデム主演『ノーカントリー』やヴィゴ・モーテンセン主演『ザ・ロード』、つい最近ではマイケル・ファスベンダーブラッド・ピットが出演した『悪の法則』の原作者といえば、メジャーな作家なんだと腑に落ちるはず。

 

この文章の綴り方、カットのつなぎ方は、創作で自分のスタイルを模索しているひとには、ひとつの参考になるかもしれません。それくらいカッコイイです。わたしもいつか真似したいと思っています。以前ご紹介した『血と暴力の国(ノーカントリーのことです)』ともどもご贔屓に♪

 

最後になりましたが、今日のブログタイトルは本の帯につけられたコピー。世界から疎外された男の荒んだ心象風景を剔抉した文言に痺れました。痺れたついでにそのままパクってしまいました。あまりみなさんギョッとしないでくださいね♥

 

 

チャイルド・オブ・ゴッド

チャイルド・オブ・ゴッド