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Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】ママ、僕もはやく大人になりたいなあ♪ -『ヤギより上、猿より下』

 本 

///前作『デブを捨てに』からほぼ一年半ぶりの新作。待ち遠しかったあ! 早くしないと、体の平山エキスが底を尽いてしまう。今じゃ、わたしの読書傾向をビッグデータやらナノマシンやらで把握しているAmazonが「新作出るぞ、早く予約せいやーっ!」とプッシュしまくってきます。忘れたくても忘れられない。ありがたいことです。

///発売日のその日のうちに買い求めた新作はその名も『ヤギより上、猿より下』。うーん、何て魅惑的なタイトルなんでしょう! 何を言っているのか、さっぱり意味が分かりません! 平山先生、頭、大丈夫でしょうか。このくらい内容を先読みさせないタイトルもそうそうありません。いやいや、これでも先生の本はほとんど読んできているので、ゲスいンだろうことは感覚的に伝わってくる。

///帯には、男の子のマンガチックなイラストが描かれ「どうぶつ好き、あつまれ~!」なんて吹き出しがある。え? もしかして今回に限って、ファンタジー? 子供向け? そんな〈不審〉を感じつつ本を裏返すと、そこには大きめのフォントで、
「てめえら、すっ殺すよ!」
「いいかい! あんたら全員、ヤギより上、猿より下なんだよ!」
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
 これぞ、平山節! 今回もわたしの期待は裏切られなかったようです。

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※〈最悪劇場〉の文字もありますねwww

///読み始めたら、ノンストップ、一気呵成です。どうしてこんなへんてこな物語で、しかもゲスいものがあとからあとから作れてしまうのか、わたしのような凡才にはとうてい理解できません。ただのデタラメならわたしにだって書ける……と思う。でも、平山先生の作品は、語り口の毒々しさ、急展開する構成、逃げ場のない絶望感、どれをとってもとにかく圧倒的です。わたしもたいがいいろんな作家の本を読み散らかしていますが、平山先生は今の日本ではトップクラスに入るストーリーテラーであると、確信しています。

///毎度、作品で異彩を放つのは登場人物たちの名前。今回も、例えば、大高のババ、芋美、チョーヅカ、フライス、エンジン、コーキー、ロハンなんて連中があらわれる。これを眺めているだけでもわたしはクスクス笑いが止まらない。西尾維新さんのネーミングに匹敵する面白さがありますナ。

///本書は4つの短編を収録。表題作品はこのあとご紹介しますが、それ以外は、『パンちゃんとサンダル』『婆と輪舞曲』『陽気な蝿は二度、蛆を踏む』。なんだこれ。なんにせよ、読んでみないことには、何の予断も先入観も許さないタイトルばかり。

///さて、『ヤギより上、猿より下』ですが、その舞台となるのは「ホーカーズ・ネスト」。日本語に訳すと「淫売の巣」、要するに売春宿のこと。主人公は、そこに売り飛ばされた、火傷した豚よりもブスな十歳の少女。初っ端の設定から、超差別、児童福祉法違反全開。なんなんでしょーか、これは(笑)冒頭、少女が売春宿に連れてこられるシーン、ホーカーズ・ネストのオバチャン、お父ちゃん、少女の会話。

『あんた名前は?』『まーがれっと』『はあ? ほんとかい? あんた、そんな名前をこの豚の尻に付けたの?』『付けたのは死んだこいつのおふくろさ。昔、好きだった少女雑誌の名前らしいぜ』『うちじゃ、そんな名前は許さないよ』『あんたのもんだ、勝手にしな』『好きなものはなんだい』『おかず』『あ?』『ご飯じゃなくて、おかず』『それでいいよ。あんたの名は今日からおかずだ』

こうして少女の名前は、めでたくおかずちゃんにケテーイ!!! もう、笑いが止まりません。直後、少女の語りで、

ネストの仕事は淫売です。淫売は、とても古くからある仕事だそうで英語のインバイテッドという言葉の元だとオバチャンは云いました。淫売とは姐さん達が股を開いて抱かれることです。でも抱いて貰うというのは正しくないのです。だって姐さん達は、ただ抱かれるわけではなく〈お客さんが目ン玉をヒン剥くような得意技〉を使うからです。

登場人物たちのドライさともたくましさとも、あるいは神経の粗雑さとも取れる会話のキャッチボール、いけしゃあしゃあと嘘八百を並べ立てる物語の運び。このくらい活字でゲラゲラ笑える作品ってなかなかお目にかかりませんよ。

///おかずちゃんの視点によって物語が進むせいで、ともすれば陰惨になりがちな物語が、どこか浮世離れして、ユーモラスに読めてしまいます。ナレーションに誰をもってくるかというこのあたりの工夫も絶妙です。

///ホーカーズ・ネストには、姐さん格にあたる3人の淫売婦たちが居るのですが、その名前もおかずちゃんに負けていない。〈つめしぼ〉〈せんべい汁〉〈あふりか〉……もう狂気のとどまるところを知りません。彼女たちは淫売婦としてはかなり年齢も上で、かつては通い詰めていたお客さんもひとり減り、ふたり減り、商売は上がったり。このあたりの設定が物語に次々と問題が持ち込まれる呼び水になっています。

///客足が減ろうとも、上位組織に上納金を納めなければならないオバチャンの苦悩は深い。そうしたときに、上層部が新戦力をおしつけて送り込んできます。そのニューフェイスこそ、ヤギの〈甘汁〉とオランウータンの〈ポポロ〉。え? 何を言ってるか分からない? 動物のヤギとオランウータンが売春宿の危機を救うためにおしつけられ送り込まれて来たわけですよ。売春宿と動物、ああ「どうぶつ好き、あつまれ~!」ってそういうことですか……ゲス度全開、クライマックス!wwwww

///ヤギとオランウータンと売春婦というあり得ない顔触れが揃ったお店には、あたりまえのプレイでは飽き足らない、〈ど・アブノーマル〉な客たちが押し寄せる。そんな平衡感覚をうしなった世界に、いよいよダメ押しの事件が勃発。狂った登場人物たちと狂った物語の結末はどこへ向かって突き進んでいくのか? おかずちゃんもメモを読みながら「うへへへ」「がんす」「ぐっふふ」と、とんとご無沙汰のお客さんにセールスの電話をかけさせられる。「モラルとは?」「人権とは?」なんてどこ吹く風ですね!

///家庭内暴力に追いつめられていく小学生の決断を描く『パンちゃんとサンダル』、十年前に失踪した娘の行方を追う〈ババ〉と主人公の男、その意外な結末『婆と輪舞曲』、殺し屋が狙うターゲットの真相とは、『陽気な蝿は二度、蛆を踏む』。

///どの物語もエキセントリックで、展開が読めない。でも、それだけでは読者を惹きつけるには弱い。登場人物たちは、暴力的で異常な状況に追い込まれても、最後まで抵抗することを諦めない。そういう姿勢があるからこそ、読んでいるひとはあまりに救いのない物語の中にも、ささやかな光明を見出し、ついついページを繰ってしまうんだと思います。

///本作を読むと、物語ってここまで自由で良いんだという発見になります。本書は、創作する際の〈模範的〉な手本になるでしょう。ただ、内容があまりに非模範的、非人道的、非社会的なので、そこは腹を括ったうえで読んでいただきたい。熱帯夜を涼しくする怪談としてもオススメかも? 

ヤギより上、猿より下

ヤギより上、猿より下

 
デブを捨てに

デブを捨てに