Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】真夏の夜の百物語より8編-『百物語』

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今、百物語を行うと、どんな物語が集まるのだろう。

怪談には、

  1. 目に見える現象を科学的に説明できないから、怪異で辻褄を合わす
  2. 正論として語ると押し付けがましくなるので、怪異を用いた因果話として語る
  3. 風説・風評に尾ひれ、例えば因果関係であったり擬人化の装飾が施される
  4. 考えつくかぎりの理由も見えない、物語としての筋道も存在しない

など、いくつかのパターンが存在する。
いずれも「怪談」で括ってしまっていいものだが、今なら、二番目は「迷信・ジンクス」、三番目は「都市伝説」の名前で呼ばれることが多いだろう。

「荒唐無稽」で片付けられる、これらの物語は、社会学的に研究してみると、案外、ひとの不安を解消するための心理作用が「合理的に」働いていることが分かる。

例えば、耳にピアスの穴を開けたら白い糸が出たという話には、体を不必要に傷つけることへの後ろめたさや不安が投影されている、といった感じだ。

中には、四番目のようにどうにも解釈のしようがないものもある。
例えば、道を歩いていたら、自分の背丈と同じ大きさの西瓜が転がっている。
みるみるうちにそれは小さくなっていき、やがて消えたといった具合の話である。
わたしが読んだ中では、木原浩勝・中山市朗『新耳袋―現代百物語』シリーズにその手の話が多かったと記憶している。

今日は、そうした怪談集の中でも、江戸情緒と人間のイマジネーションが多彩に溢れた素敵な一冊をご紹介する。

 

さて、ここにひとから伽羅の線香を百本貰ったご隠居がいる。

今日から閑居を訪れる人に一話ずつ物語を乞うて徒然のなぐさみにしょうと思っての…

その数えとして一話につき一本、火を灯すという。
ただし、

古より百物語と言う事の侍る不思議なる物語の百話集う処必ずばけものあらわれ出ずると

言われている。
だから、最後の一本は無事を祈願して立てようと。

かくなる次第で杉浦日向子『百物語』は開幕する。

其の六
深夜の墓地で白衣僧形の男女が墓石を磨く。
それを見かけた男が見咎めると、ふたりは逃げ出し、闇に消えてしまう。
その消えたあたりで四つの目が光る。
ぞっとした男は家路を急いだ。
家に帰り着くと、七歳の娘が父の帰りを喜び迎える。
その娘の歯には、お歯黒がベッタリと塗られていた。

 

其の十五
浜で網を引いている男のもとへ赤ん坊が生まれたとの知らせ。
喜び勇んで家へ飛んで帰ると、産婆が腰を抜かしている。
妻はお産の疲れで寝ているが、赤ん坊の姿がどこにもない。
産婆が言うには、生まれた赤ん坊はへその緒を切ると、すぐに立ち、にこにこ笑いながら外へ歩いて行ったという。
男はほうぼうを探したが行方は知れず、妻は気が触れて死んでしまった。

 

其の三十
死んだ母のためにお盆の迎え火をする家族。
夜寝静まった時分に、どこからかひとの話し声が。
目を覚ました長女が声のする場所を探し求めると、鼠になった母がオスの鼠と戯れていた。
浅ましく感じた長女は、そのありさまを詰る。
恥ずかしくなった母親はオスの鼠ともども姿を消す。

 

其の四十一
旅する親子は、地獄谷という場所で煮え立つ池を見る。
試しに父が指先を入れてみると、さほど熱くない。
指を引き抜くと、燃えるように熱くなる。
手を差し入れる、引き抜く。
両腕を差し入れる、引き抜く。
煮え立つ池に浸かっているあいだは、なんとも心地いい。
通りかかった僧が、池のほとりで泣く子供を見つける。
父親は池の中から首を出し、にこにこ笑うばかり。
僧の言葉にも反応しない。
そのあまりに惨いありさまに、僧は子供だけ連れ去った。

 

其の五十四
男が家に帰ると女房がふたりになっていた。
男には見分けがつかない。
親兄弟にも見分けがつかない。
僧や八卦見にも見分けがつかない。
夫婦三人ながらも仲良く暮らした。
やがて、ふたりの女房は、三人ずつ娘を産んだ。
六人の娘たちもみな同じを顔をしていた。

 

其の七十
男が井戸を普請中に、百年以上前の即身仏を掘り当てた。
即身仏の口からは蚊の泣くような声が漏れている。
男は薬を飲ませ、身体を揉みほぐすが、蘇りはしない。
ところが、ある頃より肌に赤みがさしてきた。
不思議に思って家の者を調べると、下女が隠れて自分の乳を与えていたことが分かる。
そのまま乳を与え続けていると、あるとき即身仏が乳に噛み付くので、下女が突き飛ばしたら、頭がもげてしまった。
よく見れば、胸も腹も空っぽで、乳を与えようとひとに戻るはずもない。
のち、即身仏が出た場所を、乳の出の悪い女房たちが詣るようになった。

 

其の七十二
旅籠に泊まった役人の部屋に蛇があらわれた。
それに浴衣をかぶせ、上から刀で串刺しにする。
浴衣を取りのけ確認すると、そこには古びた腰帯があった。
裂け目からは黒髪が溢れていた。

 

其の九十二
娘の婚礼が纏まった庄屋の夫婦。
庭に生える楠の木で鳥居を作って、神さまにお礼をしようと考える。
そこに娘を見初めた侍が自分の嫁によこせと言い出した。
庄屋は唐突な申し入れを断り、家を閉ざす。
しかし、その晩、娘の姿が消えた。
翌朝、庭の楠の木を見ると、幹の中程に娘の姿が浮かんでいた。
庄屋の夫婦は世をはかなみ巡礼に旅立ち、それ以来、楠の木はそのままになった。

 

本書は活字でなくマンガなので、残り91編、ぜひ肩肘張らずに楽しんでいただきたい。
また、物語の創作が好きなひとたちにも、想像の飛躍のヒントになるだろうと思う。
怪談だからとぜひとも敬遠せず‥‥‥。

 

オススメです♪ 

 

わたしの場合、血みどろな凶悪すぎる百物語も好みなのですが。

 

百物語 (新潮文庫)

百物語 (新潮文庫)

 
新耳袋―現代百物語〈第1夜〉 (角川文庫)

新耳袋―現代百物語〈第1夜〉 (角川文庫)