Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【雑 文】「我を崇めよ」、加藤保憲を生み出した怪作『帝都物語』

買おうかどうしようか、悩んでいるブツがあります。
10,000円以上もするのですが、Amazonの日本映画では5位の売れ行き。SFカテゴリーにしぼるなら堂々のランキング1位です。(平成27年6月4日現在)

 

そのブツとは、Blu-ray版『帝都物語』。

 

帝都 Blu-ray COMPLETE BOX

  

映画の原作をお書きになったのは、作家というよりもむしろ博物学者として有名な荒俣宏さん。
小説『帝都物語』は爆発的に売れました。SF大賞だって受賞しました。
その勢いで映画化されたのが本作。1988年、実に今から27年前の話です。
当時、荒俣さんは古書を蒐集するのに一億円以上の借金を抱えていたそうですが、一連の大ヒットにより全額返済したという曰くつき(?)の作品でもあります。

帝都物語』という昨今の国際情勢では、放送禁止用語にもなりかねない物騒なタイトル。その剣呑さに惹かれ、少し前にケーブルテレビで鑑賞したようなわけで。

 

ところが、

その突拍子もない世界観!
豪華な配役!
嶋田久作さんのカッコよさ!

にわたしはひっくり返っちまったのです。
日本にもすごい映画があったんだねえとそのときのわたしはしみじみ思いました。

 

CGに慣れたわたしたちの目からすると映像はチープですし、ストーリーを端折り過ぎたため観客がおいてけぼりにされている感も否めません。
しかし、帝都、すなわち東京の破壊を目論む男とそんな彼から東京を守ろうとするひとびとの姿に異様な気迫を感じました。
時代はバブル。作品の背景にお金が荒れ狂った世相があったからこそ、東京の破壊と防衛の協奏曲はある意味説得力を持つのかもしれません。

護法童子という変なクリーチャー(むちゃくちゃショボイですが)が出てきますが、それをデザインしたのがエイリアンのH.R.ギーガーだっていうんだから、それまたおったまげです。本当にバブルだったんですね。

 

今日はそんな映画『帝都物語』をご紹介します。

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平将門の怨念を受け継ぎ、ここ帝都・東京の破壊を目論むひとりの魔人。彼の名は、加藤保憲嶋田久作)。

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そんな彼の野望を阻止せんとして闘いを挑むひとびと。
明治から関東大震災を経て帝都が復興するまでのあいだにわたる、闇と光、両者の熾烈な攻防が描かれます。

嶋田久作さんの異常な迫力と異様な顎の長さに、ほかの俳優さんたちはともすると影が薄くなりがち。しかも、これが彼のデビュー作なのですから、衝撃は重なります。「加藤保憲」は、まさに嶋田さんのために存在しているようなものです。

ちなみに、嶋田久作さん演じる加藤保憲ストリートファイターのベガのモデルだっていうのは、今さらですが。

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国策として富国強兵を唱えた明治政府は、首都である東京も近代化しなければと考えます。そのプロジェクトのトップに立つ渋沢栄一勝新太郎)や織田完之(大滝秀治)。勝新はおとなしく演技したのかな。大滝さんの抑制のきいた台詞回しに痺れます。

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近代化するにしても、帝都を霊的に防衛された都市にしなきゃいかんと主張する土御門家(平幹二朗)や煉瓦壁と高層櫓で取り囲み、そこに高射砲を設置すると譲らない陸軍。
だが、東京の土壌の脆さを考えたら、そんな煉瓦建築は地震のとき危ないでっせ、とクールに決める物理学者・寺田寅彦寺泉憲)。

寺田寅彦、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
夏目漱石門下で、日本でノーベル賞に最も近かった天才、寺田寅彦
ちなみに「天災は忘れた頃にやってくる」の名言を残したのは彼です。

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その寺田寅彦の分析通り、加藤保憲は東京に人為的に地震を引き起こし、崩壊させようと企んでいました。それを直接間接に阻止しようと大勢のひとが戦いを挑みます。

森鴎外中村嘉葎雄)、幸田露伴(高橋幸治)、辰宮洋一郎(オリジナル・石田純一)、鳴滝順一(オリジナル・佐野史郎)。中村嘉葎雄や高橋幸治なんていう重厚な顔ぶれはもう二度と日本映画において見ることはできないんだろうなあ。

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いやあ、このツーショットもすごいですよね。マザコンと不倫は文化という、およそ水と油のようなふたり(別に、佐野さん、石田さんに悪意はありませんので誤解なく)。こんな共演もあったんですね。それにしても若い!

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しかし、加藤も着々と呪術を放ち、おのれの計画を遂行していきます。人体に蟲(むし)を寄生させ、ひとを操る蠱術(こじゅつ)・腹中虫。写真はその蟲を吐き出しているところです。ちと、グロいですかね。

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ところが、みんなの防戦も虚しく、関東大震災は引き起こされます。帝都は壊滅的な打撃を受けますが、どうやら加藤が想定していたよりは小さい。悔しがる加藤。その証拠に東京は瓦礫のなかから復興していきます。彼の第二ラウンドがスタートします。

復興した銀座の街なかに立ち尽くす加藤保憲。まるで心霊写真のよう。怖っ!

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これ以降のキーキャラクターは原田美枝子さんが演じる目方恵子。加藤と対決することが運命づけられている巫女です。可愛い!

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大震災でメタメタになったあとの昭和二年、浅草-上野間に日本初の地下鉄ができます。現在の東京メトロ銀座線ですね。その設立に活躍なさった早川徳次宍戸錠)や考古学ならぬ考現学(現代を研究する)を立ち上げた今和次郎いとうせいこう)なんかも登場します。今のいとうせいこうさんしか知らないひと、どうですか、少年のようです。

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後半の目玉は、東洋初のロボット・學天則の活躍……と書くと語弊があります。このロボット自体はたいした活躍をしません。話題になったのは、學天則を開発した西村真琴博士の役を本当の息子でいらっしゃる西村晃さんが演じたことです。

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こちらが西村晃さん。この方、二代目水戸黄門です。ね、同じでしょ?しかし、お祖父さまが博士で、それを俳優の息子が演じるって、ちょっとしたトリビアエピソードですよね。

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リベンジマッチを挑む加藤に、今度はこうしたひとびとが加わり立ち向かいます。
東京は幾度となく、自然現象や戦争という人間の憎悪により破壊されてきました。加藤保憲はそうしたもろもろの負を象徴します。しかし、東京に暮らすひとびとは、決してへこたれなかった。自分に与えられたそれぞれの役目を果たしながら、壊されるたびに東京を生き返らせていったのです。あたかも、炎のなかから飛び立つ不死鳥のごとく。そうしたひとたちの野望と熱意、そして暗闘を描いたSF物語『帝都物語』。

 

ほかにも、 特別出演で、三遊亭好楽師匠や星ルイスさん(好楽さんの手前)。三遊亭好楽師匠は『笑点』のピンク色のひと。画面左端に三遊亭圓橘さんも少しだけ映っています。

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桂文枝師匠。桂三枝さんといったほうが、通りがいいかもしれませんね。ワンポイントではなく、きちんとした役どころがあります。うえの流れでは説明できませんでした(汗)

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それから、本当に本当の特別出演、坂東玉三郎さん。
今もかっこいいですが、昔もイケメンですね♪

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後半はやや駆け足になってしまいましたが、雰囲気はつかんでいただけたかと思います。こんな顔ぶれの映画、そうそう撮れません。そして、なによりも嶋田久作という逸材を掘り起こしたことが、本作の最高最強の成果といって差し支えないでしょう。

 

荒俣宏さんという天才がご自身の博覧強記を縦横無尽に駆使して生み出した、幻想の物語。そして、時代の熱気にあと押しされながら、オールスターキャストで銀幕を飾った、映画『帝都物語』。

わたしもこんな物語を書いてみたいと思ったことを最後にお伝えしておきます。
あー、小説書きたい。

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