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Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】世界と最愛のひととの両天秤-『11/22/63』

11/22/63 上

 

 なんて読むのだろうと思ったけど「イチイチニーニーロクサン」でいいのでしょう。ケネディ大統領がテキサス州ダラスでブローン・アウェイ、つまり暗殺された日をタイトルにしたスティーヴン・キング『11/22/63』。主人公のジェイクは友人のアルから、過去へ行ける秘密の穴の存在を明かされます。しかも、死期の近いアルは、ジェイクを男と見込んで、とんでもないことまでお願いする。それはケネディ大統領暗殺の阻止です。


 過去と現代を行き来できる穴、主人公曰く「兎の穴」は、なぜかは分からないけど、1958年9月9日にしか行けません。だから、アルのお願いを実行するには少なくとも5年のあいだ過去で生活しないとダメ。しかし、「過去」だって勝手に歴史を書き換えようとするジェイクに手をこまねいてはいません。あらゆる手段を駆使して、時間に介入しようとする彼を妨害します。それが彼の生命を奪うようなことになろうとも。


 物語はケネディ大統領の暗殺阻止を主軸にしていますが、それだけではない。1950~60年代の、いわゆる古き良き時代のアメリカを描きつつ、そこに最愛の女性の存在を絡めてきます。キングお得意のさまざまな商品、音楽、キャッチコピーなどの情報をちりばめつつ、その時代に暮らしたことのないわたしたちにノスタルジックな気持ちを抱かせます。絡み合う陰と陽の絶妙な配分とそこへ没入させるキングの筆致は衰え知らず。


 ホラーの王様(キング)キングだけど、本作は『スタンド・バイ・ミー』や『ショーシャンクの空に』系統。ひさびさに重厚なドラマを上梓したなあと思います。面白かった。いわゆる時間旅行ものなんだけど、もちろんアイディアがないからではなく、これをモチーフにしないと語りえない物語なんです。ラノベでいうと西尾維新傾物語』なんかもそうでした。時間をやりなおせることが本当にいいことなのかどうなのか。


 文庫本にしたらおそらく四冊に相当するボリュームだけど、まったく長さを感じさせません。これぞエンターテイメントという上質な物語をお探しの方、古き良き時代のアメリカをかいま見たいかたにオススメです。


 歴史に「if」はタブーと言われていますが、穿った見方をすれば、それだけ歴史における可能性のシナリオがひとを惹きつけ、話していて際限がなくなるからでしょう。着実に近づいてくるケネディ暗殺の日『11/22/63』。歴史の改変は、たとえそれがいかなる理由であってもひとの恣意からなされて良いのか。愛するひとと歴史修正の選択を迫られたとき、わたしたちならどのような決断をくだすのか。みなさんもぜひお楽しみください。

 

11/22/63 上

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11/22/63 下

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