Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【マンガ】三夜連続・熱帯夜に涼む 第一夜ー『不安の種(1)』中山昌亮

///真夏の夜に贈る、清涼読み物。ほかの話が気になるひとは、原作をお買い求めくださいね♪

 

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【 本 】ひさびさの大ヒット! 現代日本のあらゆる問題が本書一冊で明らかに-『タテ社会の人間関係』

///ひっさびさにすっげえ本を読んだ! 一刻もはやくみなさんにお伝えしたい!

///中根千枝『タテ社会の人間関係』。タイトルだけ見ると、ちょっとお手軽なビジ本、自己啓発本を想像しちゃうかもしれないけど、すンごく中身が濃い。そのわりに、難しい言葉を一切使っておらずとても理解しやすい。これ一冊で、政治から会社、家庭、教育現場のことまで、今、日本で起きていることの問題が洗いざらい理解できてしまう。さすが名著!!!!!!!!!!

///この本が書かれたのは1967年。今からざっと50年前だよ。もちろんわたしが生まれる前。日本という風土に起きるべくして起きる社会現象をここまで網羅している本書には驚愕以外の言葉が思いつきません。つまり、どういうことかというと、ここに記された内容がきわめて普遍的で、いつの時代の日本にも通じるものをもっているということ。

///人間社会を構成する要因にはふたつのものがある。それは「資格」と「場」。具体例を挙げるね。あなたが横須賀鎮守府の提督になって、艦むすたちを率いたとする。そうすると、あなたの資格は〈提督〉で、場は〈横須賀鎮守府〉になる。艦むすたちは場こそ同じ〈横須賀鎮守府〉だけど、資格は〈戦艦〉だったり〈重巡〉だったり〈正規空母〉〈軽空母〉〈軽巡〉〈駆逐艦〉だったりと、もっと細かくなる。

///日常生活において、あるいは会社や学校のような公的空間において、資格と場、どちらを判断基準として優先し、なおかつ行動するか、これが民族によって異なる。

///欧米やインドなどにおいて優先されるのは資格。「提督同士、仲良くやりましょうや。艦むす? あれは戦闘のコマですわ。わたしらと同じ扱いになるわけないじゃないですか。実戦で弾詰まりを起こされちゃかないませんからな、せいぜいしっかり整備させておきますわ、ハハハ」若干、ブラック経営者風に誇張しましたが、おおむねこんな感じの発想。提督と艦むすはもちろんのこと、戦艦と空母、重巡軽巡のあいだなどにも決して超えられない、超えてはならない壁がある。このタイプの提督は判断を下す際、いちいち艦むすたちに意見を聞いたり、根回ししない。判断を下すことは提督の責任であり、特権だからです。

///一方、場(組織や所属)を重視するのが日本。さまざまな資格を持つ者たちが場によって一括りにされてしまう。そのなかでは一体感が尊ばれ、否が応にも場に対する忠誠度も高まっちゃう。資格による区別が希薄だから、能力よりも在籍年次の長いひとのほうが優遇されがち。理屈より情が幅をきかす親分子分の世界でもあります。着任したてのころは「みなさん、はじめまして、このたび着任しました新米提督どぇーっす! 暁サン、今日もレディーですね! 加賀さん、そんなものこの提督めがお持ちしますですっ! 那珂ちゃん、センターよろしくっ! 呉鎮守府舞鶴鎮守府の成績が若干上回っているようなので、みんな一丸となって頑張りましょーっ!」ってな具合ですが、ひとたび戦闘ともなれば娘たちが「提督に指一本触れさせてなるものか! 皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ!」と早変わり。これが日本でよく見かける組織の姿なんですね~♪

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///艦これを描いたたくさんのパロディマンガには、提督が艦むすを大事にしたり、お姉さんたちが駆逐艦を可愛がったり、とてもほのぼのしたものが多いけど、こうした擬制家族的(家族を真似したって意味ね)な様態のありかたがまさに「日本」なわけです。

///資格ではなく場を重視する社会、つまり日本では、どんなことが起きるか。以下にちょっと箇条書きしてみましょう。

  • 階級を超えた仲間意識が強くなる。理性よりも感情が判断基準。親分のためならエンヤコラ、提督のためならエンヤコラ。
  • 能力主義より年功序列が機能する。帝国海軍の駆逐艦初めて大型で強力な61cm魚雷を搭載しました、睦月です!
  • 「うちの会社」「うちの学校」という言葉が示すように「ウチ」「ソト」の意識が強くなる。「ウチ」は味方、「ソト」は敵。
  • 自分の属する組織以外はみんな競争相手なので、企業同士、学校同士、鎮守府同士のあいだで連携した研究・開発が行われにくい。セクショナリズム
  • 連携しないから、社会が分業ではなくコンビニのような何でも揃っている集約型を好む。結果、同じような会社が複数あらわれてしまい、競争激化、社会コストのムダが大きくなる。
  • 日常的に顔を合わせているひとだけに「ウチ」の気持ちを抱くので、社交性が育たない。究極の「ソト」である外国人と話すのが苦手(だから、英語を覚えない)。
  • 絶対的な階級差を嫌うので「みんな、やればできる」という根拠のない能力平等主義が蔓延する。
  • 能力平等主義を信奉する左翼系ピープルが特権ムード的なぬるま湯道徳(口先だけ)を広める。
  • 欧米では良い大学に入ってもそのなかで社会階級差別がある。日本の場合、そこまで差別がひどくないので、努力すれば努力しただけ上昇できる。ただし、努力が報われないと欧米以上に劣等感をひどくする。
  • 組織運営も人間関係が重視されるため、上司が部下に必要以上に気を使う。意見の調整に根回しが必要。稟議書というシステムが発達している。
  • 論理的な議論がしづらく、不毛な感情論に陥りやすい。
  • 小説や映画などの評論を行った場合、個人攻撃と受け取られる可能性がきわめて高く、評論活動の健全な発展が望めない。
  • 与党と野党の論争も感情論に終始し、建設的な議論がなされない。

///これらのことが1967年の時点ですべて論理的に指摘されている。すごくない?

///著者の中根千枝さんは女性初の東大教授。うーん、むちゃくちゃ頭がいいんですな。変な評論家の文章を読むくらいなら、本書を10回読んだほうが絶対にお役立ちです!(なぜ巻雲……)

  

タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)

タテ社会の人間関係 (講談社現代新書)

 

 

【だいあり】実はわたしは3人目なのでゲソ

自分の実力をわきまえないブログ主は2枚目にして、とんでもなく面倒くさい作品に手を出したのでゲソ。

そのせいで本当は3枚目であるわたしのほうが先に完成してしまったんでゲソ。今頃、2枚目でこころが折れているんじゃなイカ?

それにしても線がヨレヨレでゲソね。わたしはもっと可愛いでゲソよ。

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【 本 】(リライト)願いを叶えるために十二人の戦士がバトルロイヤルを繰り広げる-『十二大戦』

///西尾維新『大斬』。小畑健中山敦支金田一蓮十郎ほか総勢9名のマンガ家たちがそれぞれのイマジネーションを駆使し、西尾維新さんの原作にビジュアルの血肉を与える。コメディあり、ホラーあり、青春あり。とても一冊のマンガとは思えない内容の幅広さと目まぐるしさ。最初から最後まで西尾ワールドに陶酔しっぱなし。 

///『荒川アンダーザブリッジ』『聖☆おにいさん』の中村光さんが担当したのは『どうしても叶えたいたったひとつの願いとわりとそうでもない99の願い』という長ったらしいタイトルの作品。サンマーク出版から出ている自己啓発本なんぞのようですが、これが今日紹介する『十二大戦』の後日談。

///『99の願い』冒頭のモノローグ。

十二年に一度開催される十二大戦
干支の名を宿す十二人の猛き戦士が
互いの生命と魂を賭けて殺しあう儀式
この戦いに勝ち残った者はどんな願いでも
たったひとつだけ叶えることができるのだ──
で。
第十二大会の優勝者
俺。
おめでとう! 

///十二大戦・第十二大会の優勝者、俺=寝住(ねずみ)くんが優勝賞品である〈たったひとつの願い〉のために七転八倒するようすを描いたのがマンガ。その彼がどのようにして先の『十二大戦』を勝ち抜けたのかについて書き綴ったのが小説。

///いきなり関係ない話をぶっこむけど、今なら、西尾維新先生→『物語シリーズ』→阿良々木暦神谷浩史さん→結婚→中村光さん、腐女子界隈メルトダウンってなものですナ。まあ、狂気の代名詞でもあるファンという生き物は、あらゆる出来事が自分に関わりがあるように見えてしまう特殊能力を備えているので仕方ありません。

///十二大戦第十二大会に参加した戦士の名前を干支順にご紹介。

寝住(ねずみ)(本名・墨野継義)
失井(うしい)(本名・樫井栄児)
妬良(とら)(本名・姶良香奈江)
憂城(うさぎ)(詳細不明)
断罪(たつみ)兄弟・兄(本名・積田長幸)
断罪(たつみ)兄弟・弟(本名・積田剛保)
迂々真(ううま)(本名・早間好実)
必爺(ひつじい)(本名・辻家純彦)
砂粒(しゃりゅう)(本名・柚木美咲)
庭取(にわとり)(本名・丹羽遼香)
怒突(どつく)(本名・津久井道雄)
異能肉(いのうのしし)(本名・伊能淑子)

キャラクターのネーミングで遊んでいるのは毎度のこと。それに比べて本名のフツーさが目を引いてしまう。ただ、この本名、物語にはほとんど関係ないからね。つくづく何のために考えたんだか分からない反面、プロってこういう読者の目の届かないところまできちんと考えておくのね、と感心もしてしまった。

///それぞれに個性の強い登場人物たちなのだが、そのなかでも特筆は憂城(うさぎ)。上半身裸で蝶ネクタイ、パッツンパッツンのパンツをサスペンダーで止め、頭には兎の耳をつけている。で、そんなストリーキングみたいなのが両手に刃物をもって追いかけてくる。『八つ墓村』の田治見要蔵も顔負けのビジュアル。

///伊能肉(いのうのしし)が両手にもつ二丁機関銃『愛終』と『命恋』。書くまでもないとは思うけど、もちろんこれは『哀愁』と『命乞い』のもじり。機関銃についた名前が「愛の終わり」と「命がけの恋」ってんだからどんな梶芽衣子、どんな修羅雪姫なの。わたし的には本作で一番のヒットでした。

///各章の扉には、戦士たちが優勝して叶えたいものが書いてある。「平和」や「正しさ」という哲学的考究から「自分」「才能」といったやや中二っぽい問題まで。ちなみに寝住くんは「夢が欲しい。」、問題児・憂城くんは「お友達が欲しい。」です。そうかー、お友達が欲しかったのかと、あまりに真っ当なお願いにデペイズマンを感じてしまいます。

///あとがきで西尾さんが書いています。

『たったひとつだけ願いが叶うとしたら?』というのは、誰もが一度は考える問いだとも思いますけれど、結局そういうときに問われているのは、『何を望んでいるか』ではなく、『自分には何が足りないか』なのかもしれません。足りないものを欲することこそ、人の業ですか?

足りないものを求め、世界を遍歴するのは物語の基本。
矢部崇『〔少女庭国〕』にも書いてありました。

「お話ってどう書くの?」「知るか」君子が笑った。「え、だから、出る人物に何か欲しがらせて、手に入れるために行動させんだよ」

///冒頭で紹介した『どうしても叶えたいたったひとつの願いとわりとそうでもない99の願い』では、寝住くんがようやく手にした願いを叶える権利とその顛末が描かれています。もし仮にほかの戦士たちが勝者として「足りないもの」を手に入れられたならば、次にどのような物語が待ち受けているのかも興味が尽きないところ。 

 ///けっこう、戦士たちの最後が悲惨で、だれがどれとは書きませんが、首チョンパだったり、胴体切断だったり、ゾンビだったり、頭つぶされたり、粉微塵だったりします。まあ、このあたりのグロテスク趣味は西尾さんの趣味か、過激なものを求める読者へのサービスか。

十二大戦

十二大戦