Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】剣と魔法とミステリーと-『折れた竜骨』

折れた竜骨 上 (創元推理文庫)

直木賞の決定が明日に迫りました。
「賞」にはいろいろ大人の事情が絡み、のちのちに物議を醸すことも少なくありませんが(メッシのMVPとかね)、それでも受賞できたかたにとっては嬉しいことこの上なし。
さらには、それが売上増につながれば、作家さん自身も出版界も活気づこうってもの。

米澤穂信先生は候補作『満願』で昨年も山本周五郎賞を受賞しています。
もしこれで今年直木賞を取れれば、同じ作品での二年連続のダブル受賞。
今日は、どんな心境でおられることやら。
わたし、気になります

米澤先生といやあ、ミステリー界ではそれなりの地歩を得た方。
その先生が剣戟と魔法が繰り広げられる世界とミステリーをがっちゃんこしたのが、本作『折れた竜骨』。
こちらもまた2010年の「日本推理作家協会賞」受賞作で、本当に米澤先生、ここんところ賞付いちゃっているのです。

時代は12世紀。
場所は北海の真っ只中に浮かぶソロン諸島。
そこには、

小ソロン島-領主の居住する館がある島
ソロン島-住民が交易を営む島

がある。
ただし、小ソロン島へはソロン島から渡るしかなく、それは一日のうちの限られた時間だけ(ここでさらっと、密室殺人の要件設定がなされているわけね)。
そんな小ソロン島へ「呪われたデーン人」が攻めてくるという急報がもたらされ、領主がヨーロッパ各地の傭兵を雇い入れるところから物語が始まります。

途中、惨たらしい殺人事件が起きまして、さあ、犯人は誰なのかというふうに話は進んでいきます。
容疑者の顔ぶれは多彩です。
島にとってまったくの新参者である傭兵たちのなかの誰かなのか。
あるいは、領主一族たちの手によるものなのか。
はたまた、東方の地より当地へ遣わされたという正体不明の暗殺騎士のしわざなのか。
犯行不可能だった者がひとりひとり除外され、最後にたったひとりその可能性を有するものが残ります・・・その意外な正体とは。

古典部』シリーズや『儚い羊たちの祝宴』的な世界観を勝手に想像していたわたしは、ガチガチのファンタジー世界に肩透かしを食わされました。
しかも、剣戟と<魔法>が繰り広げられる世界が舞台ですから、基本、何でもありの状態でミステリーがうまく組み立てられるのかしらん・・・、
犯人がバックラーを通じて異次元から拳銃を取り出して、手際よく被害者を始末したあとに、またバックラーのなかへ拳銃を隠したら物証はなくなるし、そのうえ、探偵に追い詰められるたびに犯人が「私の戦場はここじゃない」とか言って、時間を巻き戻したら、もう事件の解決は不可能じゃん、
・・・ん、わたしは何の話をしているんだ?

しかし、そうした荒唐無稽、デタラメなご都合主義に陥ることなく作り上げられたもうひとつのヨーロッパ世界で、領主の一族、呪われたデーン人、一癖も二癖もある傭兵たち、そして暗殺騎士と呼ばれる正体不明の連中がそれぞれのドラマを繰り広げます。

そして、あらゆる伏線が終盤で見事に回収されていく手際は、まったくもってあざやかで、決してミステリーを見失っていない。
ここは米澤先生の米澤先生たるゆえん。

ちなみに本作は、さまざまなミステリーランキングでも一位、二位を占める秀作。
剣と魔法(とミステリー)が好きな方には、楽しんでもらえる作品です。

オススメです♪

読んだことはないんだけど『修道士カドフェル』シリーズを彷彿とさせるらしいです。

 

折れた竜骨 上 (創元推理文庫)

折れた竜骨 上 (創元推理文庫)

 
折れた竜骨 下 (創元推理文庫)

折れた竜骨 下 (創元推理文庫)