【創文メモ】日本語って複雑! わたしたちってもしかして頭いい?
ある放課後のこと。
バスケ部の活動が始まろうというのにメンバーの山本くんがやってきません。
顧 問「山本がまだ来てないが、今日は休みか?」
生徒A「いや、宿題を忘れた罰として、教室の掃除をさせられていたみたいですよ」
日常会話や小説のひとコマとして、ごくごくありがちなやりとりです。
ところが、こんな平凡な会話を行なうために、わたしたち日本人がどれだけ複雑な情報処理をしているかをお話しましょう。
うえの会話のポイントは「教室の掃除をさせられていたみたいですよ」。
この文を分解すると、こうなります。
「教室の掃除を/させられ/てい/た/みたいですよ」
スラッシュで切り分けられた要素を細かく見ると、以下のとおりです。
- 「させられ」…使役受身形
ほかにも能動態や受動態など。専門用語で「ヴォイス(態)」。 - 「てい」…現在進行形
行動や状態の継続などを示します。専門用語で「アスペクト(相)」。 - 「た」…過去形
ほかにも現在形や未来形など。専門用語で「テンス(時制)」。 - 「みたいですよ」…推測
発話者の心の態度をあらわします。専門用語で「モダリティ(法制)」。
生徒Aが顧問の先生にすらすらと答える背後には、こんな意識の流れがあるはずです。
- 生徒Aは、山本くんがいやいや掃除をしているのを知っている(させられ)。
- しかも、そのようすを生徒Aは目の前で見ていた(てい)。
- ただし、少し前のことであり、今現在のことは知らない(た)。
- 罰掃除のことは山口くん本人の口から聞いたことではなく、あくまでも前後の事情から生徒Aが推測したことである(みたいですよ)。
いかがでしょう。
わたしたちが日常的に発話しているときも無意識のうちにこれだけのニュアンスを含めながら、言い方を工夫しています。
さらに言うと、顧問の先生に対する敬意から「敬語(です)」を用い、突き放した言い方にならないように「間投詞(よ)」まで付け加えるという芸の細かさ。
英語ができないとお嘆きのそこのあなた、こりゃヘタしたら日本語のほうが数倍難しいんじゃなかろうかと思いませんか。もっと日本人であることに自信を持ちましょう(笑)
今日お話したことは、あくまでも言語学のフィールドにおける専門知識です。
こんなことを考えながら、わたしたちが会話していたら、頭が変になっちゃいます。
しかし、創作などで文章を書くときに、登場人物のセリフに含めるニュアンスをぞんざいに扱うと読んでいるひとは混乱します。こんなことにも少しだけ気配りできるようになるといいんじゃないでしょうか♪