Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【 本 】残虐度は控え目、展開は予測不能、傑作ホラー小説-『メルキオールの惨劇』

メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

 

そうそう、昨日は、本当は『メルキオールの惨劇』についてご紹介しようとしていたんです。それがいつの間にか民主主義の話になってしまい、大変申し訳なく思っています。ちょっと執筆の裏話をしますと、書いているあいだ、さくらさんは安保法案可決のことなんか、全然知りませんでした。

 

書き終え、ネットのニュースを徘徊したときに、世間がそのことで大騒ぎになっていることを知り、偶然とはいえ、何かの啓示を覚えました(←危ない)。ああいう、かたっ苦しいのはあまり書かないようにするつもりだったのですが、指がわたしの意志とは関係なく勝手に綴っていく‥‥‥。

 

と、まあ、そんな人格の多重性というか、一族の血に流れる呪いみたいなことがモチーフになっている、平山夢明さんの『メルキオールの惨劇』を今日はちゃんとご紹介します。上手いこと、話をつなげました。メルキオールからキリスト教の原罪解釈に話が流れないように気をつけます。

 

ひとが不幸な死に見舞われたときの遺品を収集する男、オギー。これまでにも、

人違いで暴走族のリンチに遭い、数人に押さえ込まれた上で頭部を轢かれた青年の帽子とシャツ、百八十萬。挙式当日、式場に向かっている際中、クラクションを鳴らしたために相手からドライバーで眼球を突かれ即死した新郎の眼鏡とカツラ、五十萬。デパートの屋上で見知らぬ男にいきなり抱きかかえられ、そのままフェンスの外に放り出された少女のワンピースなど一式、二百萬。

などなどナドを集めてきました。今回、主人公の「俺」がオギーから依頼されたのは、自分の子供の首を切断した女、すなわち殺人者へのインタビュー。

 

子供を殺害した罪を償い出所してきた美和は、ふたりの子供と暮らします。図体はでかいけど白痴の兄・朔太郎(さくたろう)と柄は小さいけれど頭脳明晰な弟・礫(さざれ)。彼らにはもうひとり末の弟・澪(みお)がいましたが、その子の頭を母親である美和は切断したのでした。

 

なぜ、我が子をそのような無残な目に合わせたのか、「俺」は問い質します。しかし、一度は金のためにインタビューに応じた母親ですが、いざとなるとなかなか口を割りません。そうこうしているうちに、物語はある人物の介入によって、おかしな方向へと転がり出します。

 

あらすじを明かすと面白さが半減するタイプの物語なので、これ以上内容には踏み込みませんが、ひとを食った会話とテンポはまさに平山節。

「良い後家だが‥‥‥」
「気が強い」
「ああ、気が強い。なにしろ後家だからな。後家は気が強くなくっちゃ」
「良い尻だ」
「ああ、良い尻だ。なにしろ後家の尻だからな。後家の尻はああでなくっちゃ」
「金がいるんだな」
「ああ、金がいるな。なにしろ後家は物いりだ。後家の台所は火の車でなくっちゃ」

 

「ほんとはこの渋皮もとったほうがいいんじゃないのかな」
「蟲、埃、汗、唾、何入っても大丈夫。サクが味見で直す」
「このあいだも、そうしたのか?」朔太郎は身体を揺すって頷いた。
「材料の用意だけはふたりでやりたかったな」

 

「土のなかで蘇生するってのは良いものだ」
「糠漬けの気持ちが判るからな」

わたしがエンタメ小説を書くときに、会話のお手本にしたいのが、実は平山さんや黒川博行さん。こういうぶっきらぼうな会話って、ハードボイルドな感じがして、わたしは大好きです。

 

シングルマザーの美和に邪な気持ちを抱く警官やインタビューを成功させなければ「俺」に制裁を加えるつもりのオギーの存在。弟の澪は、なぜ殺される必要があったのか。東方の三賢者の名を冠するメルキオールとは一体何か。こうしたいびつな世界で「俺」を待ち受ける闇黒の終着点とは。

 

本書においては、メルキオールと民主主義は全然関係ありません(笑)
ハードボイルド・ホラー小説を楽しみたい方、オススメです♪

 

メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)