Just Melancholy

140字の小説をほそぼそと流します。本(ナンデモ)を読むことと旅(京都と外国)に出ることと文章を綴ることが大好きです。

【140字小説】#0074

天井近くの小窓から差し込む真夏の陽光はどこか薄ら寒く。水槽の黄濁したアルコール溶液の中には、《物》として凝集した死体たちが浮遊する。水槽の一等底には、十五年も前から全身を強ばらせ、沈殿する《物》もある。死体を新しい水槽へ移し替える作業に従事する彼女の子宮にもまた赤ん坊が浮遊する。

 

大江健三郎『死者の奢り』より